Novel


□ドッキリ
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今年デヴューで期待の新人の東くんの
出番が終わり、次のバンド、イーサンが
歌っている間に楽屋でステージ直後の
東くんを直撃インタビューする。

次はまたその次の方が歌っている間に
直後のイーサンを楽屋でインタビュー。
と、本番が行われている間中、移動と
インタビューを次々と繰り返す。

直後インタビューは本番が終わって気が
緩みやすいから、皆さんの素の表情が
出やすくて、インタビューは番組的には
絶好調だった。

順調に進む本番。私達のリポも佳境に
差し掛かり、そうこうしている間にも
私の出番。

自分の出番のひとつ前になった私は
Waveの皆さんに、インタビューの方は
完全にお任せで準備に取り掛からせて
頂いて、終わった直後私も亮太くんと
翔くんの爆笑インタビューを受けて。

流石に色んな番組でトップを務める事の
多いWaveの皆さんはこのイベントでも
トップバッターだったから、私が彼らの
準備に入ってから本番前の皆さんを
リポートしていたのだけれど。

Waveの皆さんは全然いつも通りで、
彼らの冠のバラエティの様にリラックス
した態度で対応してくれて。
やっぱりトップアイドルなんだなぁって
物凄く実感。

その上、トップバッターで歌い切って
その息も整わない内にリポーターとして
の仕事に戻る皆さんに尊敬の念を抱く。

私なんてやっぱりまだまだだなぁって
つくづく思う。

でも、私は私の出来る事を…まずはする
しか無くて。だから私は私なりに考えて
インタビューの進行はWaveの皆さんに
お任せする事にして、私よりもまだ
年季が浅く、ガチガチに緊張している
新人組の緊張を解す事を一番に考えて
話し掛けさせて頂いた。

Waveの皆さんにも伝えたんだけど…
私もそうだったから良く解る。新人の頃
本番前はもちろん、インタビューだって
常にガチガチで。

私の時はいつだってJADEの皆さんや
Waveの皆さんが解してくれた。
他愛も無い会話をする事で落ち着いて
パフォーマンスに集中出来たから。
そのお返しを私も後輩にしていく事で
返していきたいって。




「しっかしまぁ、Waveと咲ちゃんの
息はピッタリだねぇ! しかも、あの
テンポといい、ノリといい、年が近い
ってのも有るのかもしれないけど、余程
プライベートでも仲が良いんじゃない?
話慣れてない新人との絡みなんて普通は
上滑りっぽくなっちゃうもんだけど、
あのコントみたいな遣り取り、すんごく
良かったよ!」

「…コントも何も、アレ咲ちゃんの
素のボケですよ? 俺らはそれに普通に
ツッコんだだけ。」

「そうそう! 普通訊かないよね。
終わった直後にまず、今、何食べたい?
なんてさ。」

「あっ、あれは東くんがすっごく卓上の
差し入れに目が釘付けになりながら話を
してたから、お腹空いてるのかなって」

「えー、アレってまだ緊張して何処見て
イイのか判んなくて…って視線でしょ」

「えっ、そうなんですか!
あ、やだ! 私てっきり!」

「…ま、咲ちゃんは是非何年
経ってもそのままで居てよ。」

「…それって…
成長が見られないって言われてます?」

「まさか。いつも変わらず可愛いね?
って事だよ。」

「…き、京介くん!」

「出た! ハイ咲ちゃん危ないから
京介からは離れてねー。」

「…こっち。」

「えー、何ソレ!」

「当たり前だろ!」

「あーもー翔ちゃん五月蠅っ」


イベントも番組の収録も無事終わり、
深夜も回った打ち上げの席で。

遅くまで掛かるのは最初から組まれた
予定だったから、今回スタッフ演者含め
関係者全員同じホテルに宿泊している。

だから打ち上げは豪華にホテルの最上階
ラウンジ。一応テーブルは決められてて
私はWaveメンバーと同じ席。

そこに番組のスタッフさんが集まって
来られて、皆で盛り上がっていた。


「ほらねぇ? 仲が良いよなぁ…。
…あ、もしかしてメンバーの中の誰かと
咲ちゃんは既に付き合っちゃって
いるとか? ね、リークしないからさ、
こっそり教えてよ。」

「そ、そんなんじゃないですよ?」

「またまたぁ…あんなイケメン達に連日
囲まれてたらやっぱドキドキしちゃう
でしょ? 咲ちゃんの好みは誰?」

「えっ、あの、えっと…。」


「…な訳ないだろ。」
「…だな。」

「あ! 水城さん、井上さんっ、あっ
折原さんに神堂さんも…! 本日は誠に
ありがとうございました!」


本日のイベント目玉のビッグゲストの
JADE登場に、その場のスタッフが
一斉に頭を下げる。


「おいおい、止せよ。どっかの組員が
娑婆にでも出て来たみたいだろ。」

「あながち外れてもねぇけどな?」

「…どういう意味だそりゃ。」

「きゃーん、秋羅さんコワ〜イ!」

「エグ。」

「なっちゃんひっど!」

「気色悪い。」

「ちょ、春サマ!」

「大多数の正直な感想だろ。」


ふざけ合いながら秋羅さんが私の肩を
抱き寄せる。そのあまりに自然な仕草に
私もそのままJADEの皆さんの間に
収まった。


「JADEと咲ちゃんもまた仲イイ
ですよねぇ。あ、勿論プロデュースを
されてるってのがあるとしてもね。
で、さっきの言葉はどういう意味です?
…もしかして咲ちゃんとイイ仲な
メンバーさん居たり…」

「…っ!」


――ど、どうしよう…!


急な質問の方向転換に思わず動揺して
しまう私。お酒が入っていた事もあって
咄嗟に流す事が出来ない。

すると、彼が皆さんの影でそっと私の
手を握ってくれる。…まるで心配ないと
言ってくれるように。


「そりゃこんだけの色男が揃ってて、
トキメかないなんてナシっしょー?」

「え? じゃあ…」

「そ。だから悪いけどWaveくんらの
割り込む隙は無いと思うんだよね。」

「俺らがベタ可愛がりしてるからな。」

「こら、あんまり周りを煽るなよ。
変な噂立てられちゃ咲ちゃんが困る
だろ。リークしない、なんて言ってても
何処で誰が聞き耳立ててて、変な記事に
でもされたら事だからな。」

「そんな性質の悪いスタッフが居るなら
今後のイベント参加は考え直した方が
良さそうだ。」


最後に事も無げに仰ったその神堂さんの
一言でスタッフさんがざわめき出し、
目の前のプロデューサーさんは真っ青。


「いえ! 絶対っそんな事はありません
から! 変な噂だとかとんでもないっ!
…お、おいっ折角の打ち上げに変な事
質問すんな!…すみません、神堂さん
ちょっと酒が過ぎちまったみたいで。」

「…解ってくれればいい。」

「以後気をつけて下されば、俺らも気に
しませんけど…流石にあまりにこういう
質問を女性に繰り返すのは、セクハラに
なりかねませんからね。」

「お、折原さんっいや、そんなセクハラ
するつもりなんて、まったく!」

「ふーん、ま、俺らが咲ちゃんを
めっちゃ可愛がってるってコト認識して
くれたんならいーけどさ。」

「こんな下んねぇ忠告しちまう位にな」

「は、はいっ…咲ちゃんごめんね!
じゃ、じゃあまた後で…!」


蜘蛛の子を散らす様にスタッフさん達が
去って行った後、自然と他の演者さん達
グループへと混ざり込み、ぽっかりと
私とJADEとWaveの皆さんだけに。


「あ、あの…」

「んー? さ、飲もっか!」

「え?」

「五月蠅ぇ連中も撒いたし、後は楽しく
打ち上げを堪能しとかねぇとな。」

「落ち付かなかったら、出るか?」

「え、え? あの…」

「まぁ折角のホテルのラウンジだし、
ここの料理は有名だから食べてからでも
いいんじゃない?…少しは食べれた?」

「あ、実はまだ…。」

「このエビのなんて美味しかったよ。」

「あ、そうなんですか?」

「俺らのテーブルおいでよ。料理もまだ
沢山残ってるから。」


「「ちょっと待って下さい!」」


夏輝さんに目の前のサーブはしたけど
まだ全く手付かずの料理を指され椅子を
戻される。その時点になって一磨さんと
翔くんの切羽詰まった声。

目を細めた亮太くんの静かな声が重なる


「今日は俺達と彼女のダブルヘッダーで
仕事だったんだから、この席なんですよ
…反省会もするから咲ちゃんここに
残るでしょ?」

「ぅ…あ、はい。あの皆さんすみません
私、あの…。」


「俺らは困らせたい訳じゃないから。
じゃ、咲ちゃん、また後でね。」


大人な対応で夏輝さんがスッと引いて
下さってその場は収まったみたいだけど
…空気が、重い…ような…?



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