Novel


□雨のち晴れ
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【 雨のち晴れ 】



「あー…調子悪ぃ…。」


朝から体が怠(だる)くて、ミィの朝ご飯
入れてやりながらつけっぱの天気予報を
見れば雨の確率90%…。

ってか、そんなん見なくても今、現在
進行形で降ってるし。
土砂降りってんじゃないけど、結構な
雨量。傘が無きゃ完全アウトくらいは。

あー…面倒臭い。

いや、だからっていい大人が仕事休んで
ゴロゴロなんて出来る訳も無く。

セットしたコーヒーを淹れて、ボヤー…
っとしたまま新聞読んで。

朝食を食べ終わって俺の足に纏わりつく
ミィを膝に抱き。

まぁいつもの朝の一時(ひととき)で。

雨が降ると碌な事が無い。
まず朝から体がダルイ。これはもう学生
時代から。そんでもって髪の毛が言う事
聞かない。俺の髪、猫毛のクセ毛だから
雨が降るとテキメン。

毛先があっちゃこっちゃで収集付かない
状態んなる。いつもならば気合入れて、
ヘアアイロンと格闘するんだけど、こう
ダルイとそれすら億劫で。

それにあいつら。
遅刻常習者の冬馬(と秋羅)がいつもより
更に輪を掛けて遅くなるから必然的に
春の機嫌も悪くなり…。

元からこの季節持病の頭痛を頻発して
機嫌の悪い春なのに怒らせてどうする。

長い付き合いなんだからそれ位学べよ。
…毎回そう思うのに、あいつら実はM
なのか? 毎日飽きもせずに春の怒りの
ブリザード吹き荒れさせて。

もしかしたら良いクーラー位に思ってる
のかもしれないな。

俺としちゃ、春にミキサー室に籠られる
と、作業が滞るし、何よりあの問題児を
2人とも相手にしなきゃなんないのが
もう面倒。

かと言って春が居たからってあいつらの
悪ふざけの何が変わるって訳でも無いん
だけどさ。


それに何より、ギターの音。
俺としちゃ死活問題。
エレキはそんなに関係無いけど、でも
心なしかやっぱり少し音が違う。
アコースティックなんかは明らかに。

まぁその位ものとせずに弾くからこその
プロなんだけど。


…ん…っ!


本日2回目の伸びをして気合を入れる。

さぁて…行くか。
自分に気合入れて、あいつらにも気合
入れる気で、気合いを満タンに保って
行かないと。


ふー…。
一度、深呼吸。


さて。

俺は洗い物を軽く済ませて、家の中を
ザッと見回し荷物を持って出る準備。

ミィに『行ってくるよ』って声掛けて
一撫でして…車の鍵、家の鍵、携帯に
財布、それから煙草とギター。

そう言った毎度の荷物も確認して。
今回はそこに新曲のスコア。

今日は初見での音出しで、一応浚った。
これからどんどん音を重ね、一つの曲が
仕上がって行くのだけど、言うなれば
ここからがちょっと難産。

皆でウンウン唸って音出して、アタマ
突き合わせ、あーでもないこーでもない
って言い合って、春の頭の中の音に近い
でもそれ以上の音楽へと一つの着地点を
見つけ出すまでが。

毎度の事ながら、気合いは必要不可欠。
しっかり入れて行かないと途中裸足で
泣き出して帰る事になるからな。


よっしゃガンバロ。

何たって、この新曲が出来上がったら
愛しの咲ちゃん交えてのコラボが
始まるんだから。

そう思えば簡単にチャージされる簡単な
俺の気力と根性。


彼女は俺(ら)の清涼剤。
どんなにギスギスしてても、彼女が来る
だけでスタジオの空気は羽根ほど軽い。


さて、コラボに仕上げるまであと…
もうちょっと。


「行って来るよ。
イイ子にしてな?」


そう明るくミィに声掛け、出た所に。
予想だにして無かった人物の顔。


「わっ?! 」




*
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