Novel


□Refrain
2ページ/46ページ


彼女は言った。
「別れて下さい」と。

あの彼女のあの可愛い唇から聞こえた
絶望的な言葉。
そんなもん承諾出来る筈はない。

だけど、俺はこんな状況ですら彼女を
尊重したくて…いや、嫌われたくなくて
彼女を想っているのは世界中で誰よりも
自分なのだと示したくて。

承諾なんて出来やしないのに、彼女の
その申し出を突っ張って拒否る事も
出来ず…ツアー中なのを理由に返事を
先延ばしにしたんだ。


『今度時間を作って、2人でちゃんと
話し合おう』そんな無意味な言葉で
彼女を縛り付けるように。

でも、彼女の意志は固いらしく…
そんな俺の縋るような言葉にも哀しげに
首を横に振るだけで拒否られ。

俺はどうする事も出来ず、納得いかない
気持ちのままツアー中のメンバーの元に
戻ったのだった。

…もうその後は散々。
俺はリハなんて身も入らず、春にも散々
叱られて、これでも一応プロだから
ライブに穴は開けなかったけど、でも
仕上がりは最低で。
聴く人が聴けばわかる腑抜けた演奏。
でも流石にこのまんまじゃ駄目だって
のは解ってるから必死で立て直して。
大失敗な演奏をした、その翌日には…
彼女の言葉の重さがジワジワ胸に重く
圧し掛かり、でもだからこそライブ中は
頭を空っぽにして演奏にのめり込み、
俺らの担当ライターに鬼気迫る気迫の
演奏だったと言わしめた。

メンバーも彼女の休業発表でトンボ帰り
していた俺の、戻ってからの余りに酷い
様子に色々訊きたい事だらけだった
だろうに、そっとしてくれていた。
…と言うかあいつらもどう訊いていいか
分からなかっただけかもしれないけど。

俺も実際に自分が納得いっていないのに
上手く説明出来る自信がなくて。

不自然な放置のまま、ツアーはそのまま
行程通りに進んだのだった。

日本に戻ってももう彼女は居らず、
改めて話し合いたくとも出来ない。

でもそれでも
と思うストーカーのような心理の自分に
気落ちしながらも、でも引きずったまま
前に進む事も後ろに引く事も出来ず…

ただ無意味な日々を過ごし…
まるでグズグズに腐ったみたいな俺。

そんな俺をメンバーはどう思って居たの
だろう。よく考えれば解った筈だ。

あいつらの沈黙の理由を。

あの、彼女を溺愛していた春がそんな
彼女の事務所の申し出を簡単に納得
なんてする筈無いって事を。

俺が、自分の気持ちに酔って、自分も…
あいつらすらも見失ってさえいなければ
もっと早くに気がついた筈なのに。


彼女の俺に対する愛情深さに

彼女の愛に。



*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ