Event 1

□男の背中
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――ビックリした。

ホント、冬馬さんって分かんない。

ついさっきまでダイナミックにドラムを
叩いたらして、真剣なお顔とその躍動
してる大きなカラダが物凄く格好良くて
感動してたのに、ドラムから離れた途端
いつもの少年のような冬馬さんで。

冬馬さんは不思議。

…あ、不思議ちゃん的な要素は一つも
無いんだけど、掴み所が無いというか、
人懐っこく追っかけて来るのにこっちが
手を伸ばすとスルリと逃げちゃうの。

…それが冬馬さんの距離感?
よく分かんないけど。


でも、ホント凄い…!
なんて言うのかな、さっきも皆さんに
上手いこと説明出来なかったんだけど、
大きな身体に力強いビート、長い手足と
そのダイナミックなパフォーマンスは
本当に圧巻で。肩より長い髪を振り乱し
飛び散った汗も光を弾いてドラムを叩く
その姿は、正に『天下のJADE』の
ドラマーその人で。

うわー!って思った。
普段の冬馬さんは、なんて言うか…その
フレンドリーであまり他人を緊張とか
威圧するタイプの人では無いから…。
明るく朗らかで、少しエッチでいつも
笑ってる、そんな人だから。

でも今日の冬馬さんは本当に凄いオーラ
放ってて、まだまだ新人の私には近づく
事すら躊躇してしまう。

なのに、ドラムベースから降りた途端
いつもの人懐っこい冬馬さんに戻って
ハグにキスなんてするから…

ちょっとドキッとしてしまった。
これが世に言うギャップ萌え…?

そんな事を思ったりして。

でもね、本当は知ってるの。
あんなにいつもは…ふざけてばかりの
冬馬さんだけど、多分ホントは凄く人の
事をよく見てて、気を遣う人だと思う。

そんな所もオトナだなぁって思ったり。

んー、やっぱり冬馬さんは掴めない。
オトナみたいで子供みたいで。
少年のようで日本一のバンドのドラマー
なんて凄い重責背負って、でも笑顔。

素敵だな
不思議だな

あの大きな背中にはどれだけの決意や
様々なものを背負ってるんだろう。

大きな背中

筋肉が盛り上がり、大した筋トレもして
いない、なんて皆さんは仰ってたけど、
きっと人知れず努力しているのだと思う
…だって、毎日ストレッチとかしてて
思うもの。筋肉は簡単にはつかないって

だからきっと見えない所で努力してる筈

なんて密かに尊敬したりして。
ちょっとその背中を見てときめいたり
しちゃったりしたの。
憧れの範疇だけど。
(って言うか、その前に多分…私じゃ
冬馬さんの食指も動かないと思うの。
…お子ちゃま過ぎて…。)

綺麗な色素の薄い髪
太い首に張り付いて流れる
汗を撒き散らし

長くてみっちりと筋肉の膨隆した首筋
太い腕、ガッシリとした肩
…私なんかヒョイっと持ち上げちゃう。
子供を担ぐように。ああ、そうだ。
先日のライブの時にも抱き上げられた。
んー、やっぱり子供扱い?

でも、大きな肩は乗せられると安定感
バッチリ。…小さな子がお父さんに
おんぶや肩車をして貰った時ってこんな
感じなのかなぁ…もう覚えてないけど。
うちのお父さん、冬馬さんほど大きく
無いし。

そんな事を徒然と思ったりして。


「――咲ちゃん?」

「わ! ぅ、え、はいっ!」


あっいけない! 冬馬さんにまたノリで
頬にキスされちゃって、庇って下さった
夏輝さんの後ろでぼんやりしちゃってた
みたいっ


「…何か考え事してた?
ごめんね、驚かせて。」

「えっ、や! 違うんですっ、ちょっと
お父さんに肩車された時の記憶を
思い出したりして…」

「お父さん?」

「えっ、あっ、その…冬馬さん見てたら
ついそんな事を…」

「…似てるの? 冬馬とお父さん。」


凄く驚いた顔の夏輝さん。
実際にうちのお父さんに会った事のある
神堂さんが不思議そうに横で首を傾げて
らして。


「やっ、全然です! うちのお父さ…
あっ、ち父はそんなに大きく無いしっ
それにこんなに逞しい感じでも無くて!
ただ、今の私を子供みたいにヒョイっと
担いじゃう冬馬さんだから、つい。」

「なるほど。」

「つか、こんな親父居たらビックリだわ
…俺ならヤダね。」

「えーシツレーだな、お前。」

「えっ、秋羅さん? 冬馬さんって
お父さんに向いてると思いますよ?
子供と本気で遊んでくれそう…」

「遊ぶ遊ぶ! 遊んじゃうよーん?」

「…お前は本気過ぎて、子供に
ドン引かれんのがオチだろ。」

「だな。泣くまでグルグル回したり
すんだろ。力加減も無く。」

「しねーよ!」

「いや、するする。」
「するな。」
「目に浮かぶ。」

「やだ、あはは!」

「ちょ…咲ちゃん?! 」

「あっ、ごめんなさい…っ」


思わず想像して笑っちゃった。
楽しく遊んでるつもりが子供に泣かれて
本気でアワアワしてる冬馬さんが想像
出来ちゃって…。


「ね、想像出来るでしょ?」

「う、ふふ…っ、はい。」

「えー! 俺、上手よ? 子供と遊ぶの」

「一番子供をあやすの上手いのは秋羅
だろ。何故か子供に好かれるもんな。」

「えっ!」

「そぅそ! コワモテで髭面なのに。」

「強面髭面で悪かったな。」

「…あ、でも分かる気がします。
秋羅さん、どっしりしてて安心感ある
から…秋羅さん怖く無いですよ?全然。
それ所かさりげなくいつもお優しいです
よね。子供に好かれるの分かります。」

「 「「 ! 」」」


えっ、私また変なこと言った??
皆さんの視線が私と秋羅さんを交互に
見てらして…



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