Event 1

□Zombie Dream
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【 Zombie Dream 】
(ゾンビ:生ける死者)


世の中には不可思議な事が溢れてる。

世の中のコトワリ全て知ってる人なんて
そんな人、居ない。

だから、今何が世界で起きてるのか…
そんなの分かんない。


「本当に何だこりゃ。
B級のホラー映画かよ」

「…そー言うな、取り敢えず防ぎようは
無いみたいだからな。何かしらの予防
すら出来ねぇもんはもう運次第って
諦めるしかねぇだろ。まぁお前みたいな
奴は最後まで無事生き残りそうだけどな
五体満足で。」

「はァ?! ザケんな。ったりめーだろ」

「…って言うか、冬馬のゾンビなんて
唯でさえ始末に負えないのに、それが
『死なない死者』なんて、そんなの
洒落なんないだろ。」

「違ぇだろ、夏輝。『死なねぇ』んじゃ
なくて『死んで』んだよ。言っちまえば
『生ける屍』ってか?」

「うわ、グロいな…それはそれで。
しかもその『死んでんのに生きてる』
なんて非常識な上に行動も常識無しじゃ
打つ手も無いだろ。」

「何、その愛の無い発言っ? 酷ぇ!」

「…言い得て妙だな。でも冬馬、
お前の事だからゾンビになっても
『イエ〜、皆脅かし放題じゃーん?』
なんて墓場からバーンって登場だろ。」

「日本の墓場は土葬じゃありませーん!
日本の骨壷サイズのあんな小さい所から
出て来れるか!っつの。」

「何だっけ、沖縄のあの大きなお墓とか
なら問題ないんじゃ無いか?」

「ああ、あの妊婦の腹みたいな?」

「そうそう。お腹(天)に返る、とかって
説もあるって?」

「じゃあお前がゾンビ化したら
沖縄移住決定な。」

「イェー! 南の島で女の子とのんびり
…って腐んじゃねーの? 南国じゃ!」

「いーじゃねぇか、頭ん中とおんなじで
腐敗臭も誤魔化せんだろ。」

「イヤ…ッ秋羅サンほんと愛が無い!」

「あんじゃねぇか。こんなに。」

「ヤダ、マジで?」



「…ふふ、ほんと仲良いですねぇ…」


その会話は…最近、世界中をパニックに
陥れてる、原因不明の奇病『ゾンビ化
現象』って病の話題で。

そう、原因不明の怖い病気。
一度罹ってしまったら諦めるしかなく…
ジワジワと身体が死んで腐って行くのを
ただ待つのみ。
罹患総数は未だ多くは無い、珍しい病気
なのだけど、不気味なのは原因不明で、
誰がいつ罹るかすらわからない事。


意識はあるのに身体が腐り落ち、最後は
全てがドロドロになって動けなくなって
いくんだって…。脳や背骨、内臓が最後
腐敗して機能しなくなって…人格も…
最後は無くなって、地獄の餓鬼みたく
人を襲ったり、食べちゃったりもする
らしい。どっかの国では既にゾンビ化
した人達をとある村に収容して、もう
そこから出ないようにしてるなんて噂も
あったりして…。

日本ではまだ数人と言われる罹患率も
徐々に右肩上がりで増えて行く予想だ
なんて毎日のニュースで特番が組まれて
たりするの。

まるで本当に映画か何かみたい。
まーくんが以前やってたゲームでも
そんなのがあったけど…これって本当?

あのゲームも不謹慎だ、なんて発売禁止
或いは自主回収になって、市場では逆に
プレミアがついてしまっているのだとは
まーくん情報。

そんな不安に脅かされてて。
芸能界でも最近急に見なくなった方が
そんな噂をされてたりで…でも、
唯の噂で真偽の程は定かじゃ無い。
でも皆、寄れば最近この話題ばかり。

それでJADEの皆さんとも話してたの
だった。…あまりに私が不安がるから
皆さんこんな風に笑いにして下さった
けれど…本当は皆さんも不安はある筈。

でも、こうやって笑い話にしてたら、
本当に大丈夫な気がして、私も笑ったの
だった。


まさか…
彼が発症するなんて疑いもせずに。



そう、まさかの神堂さんがこの病に
侵されるなんて。


非凡な才能があって、今や世界でも
名の知れた神堂さん。
私のプロデューサーで憧れの人。

JADEとしても、神堂さん個人の活動と
しても…私のプロデューサーとしても
一目置かれてる、素晴らしい人。

それなのに…


神様は意地悪だ。
あの人に二物も三物も与えておいて、
更にはこんな病をも与えるなんて。

孤高の才能。

故に孤独な音楽創作を、あの人はずっと
黙々と熟して来た。
寝食すら忘れ、夏輝さんが心配して毎日
差し入れをしたり、メンバーの皆さんが
『春の場合佳境に入ったら周りに居る
奴が安否確認しなきゃなんねぇんだ』
なんて苦笑されて。

そんな今までもずっと孤高にも神様の
ハードルを超えて来た人に更なる試練。

こんなのって酷過ぎる。
生きて腐って行く、その病を…
音楽を紡ぎ出す、その脳を最後まで残し
人としての彼を殺して行くなんて

あまりに酷い
惨(むご)過ぎる…


そう、この時はまだ、私たちの誰も
その事を知らずに居たのだけど。



神堂さん

この、得難い人を喪うなんて
誰も信じられなかった。


この目で彼のその姿を見るまでは



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