Event 1

□サンタとケーキの甘い夜
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【 サンタとケーキの甘い夜 】



「メリィ〜〜〜クリスマス♪ 」

「メリークリスマス!」


沢山の人達が笑顔で、私たちの配った
ミニケーキを頬張ってる。

今日はとあるアミューズメント施設の
開園5周年記念。5年前のクリスマス、
開園した日、実は私もここに来ていた。
その時は芸能人ではなくて、でももう
山田さんが説得に通ってる頃だったから
ここでのイベントに出てたWaveの
皆さんのパフォーマンスを見て、漠然と
『私がもし芸能人になったらこんな事
するのかなぁ…』なんて思って観てて。

それが今、此処で…このステージの上で
こんな風に、しかもWaveの皆と一緒に
踊ってるなんて、変な感じ。

嬉しくもあり、感動的でもあり…
しかも、私はあの頃観客席から観てた
多くの人たちの中の一人でしかなかった
のに、今は…Waveの亮太くんの恋人。

最近ではあまりそんな事を意識する事も
無くなってただけに、こんな感覚が…
凄く新鮮で。

クルクルクル…

サンタの格好で、クリスマスソングを
歌いながらダンスのターンを繰り返す。

オムニバスみたいに定番の、だけど有名
過ぎるクリスマスソングとWaveと私の
ウィンターチューンが掛かっていく。

笑顔で踊る。
機械で降らせた人工的な雪が会場を舞う
…記念すべき5周年。
この5年間がオーバーラップするように
5年前の流行歌も流れて。


ああ…懐かしい。

ふふ、そう言えばこの曲が流行ってた頃
私はデビューして。音楽番組で初めて
歌ったのだ。
その時はまだ神堂さんにプロデュースは
されてない頃で…そう、あの頃はまさか
トップアイドルの彼らとこんな風に
踊ったり話したりするなんて夢にも
思えなくて。

あ…次の曲。これも思い出深い曲。
この曲のPVが可愛くて。
ダンスレッスンの時にこの曲を希望して
レッスン曲にして貰った。

歌いながらアドリブでその振り付けを
入れれば京介くんが空かさず私に並んで
一緒に踊り出し…気が付けば皆であの
PVそのままに舞台で一列になって
踊ってた。

ああ、今年もこの曲で一つ、素敵な
思い出が出来ちゃった。
可愛い歌だな、嬉しいな。

ほら、亮太くんも笑ってる。
嬉しいな、楽しいな。

………あれ?


笑顔の亮太くん。
…って言うかいつも彼は笑顔なんだけど

段々分かって来たの。
彼の『本当の笑顔』と『お仕事の笑顔』
その温度の違い。

亮太くんはずっとトップアイドルを
やっているだけあって笑顔がキラキラ。

大きなアーモンド型の瞳は黒目も大きく
凄く綺麗。睫毛だって艶々で。

そんな綺麗な顔で綺麗な笑顔で笑うから
ついつい流されがちだけど。

最近はよく笑う。
『本当の笑顔』で。

それを見慣れれば、やっぱりいくら
綺麗でも『お仕事の笑顔』は何処か、
何かが違ってて。

亮太くんは辛くてもしんどくても
いつもあの笑顔で誤魔化しちゃうから。

踊りながら様子を窺う。
あまりマジマジ見過ぎると周りに変に
バレちゃうから、ターンの時に注意して


…もしかして、肩、傷めた?
振り付けも完璧で笑顔だから分かり難い
けど、きっとそう。

さっきからいつもとは逆の手にマイクを
持って振りも上手くカバーしてるけど。

チラリと見えた首筋の汗。


――やっぱり痛むんだ…!

それに気付いたらもう、そのまま
放っては置けなかった。

スッと列を外れて後ろに準備された
風船を手に亮太くんに近付く。
アドリブで踊り出したのに、また突然
動きを変えた私に京介くんが片眉を上げ
チラリと亮太くんを見て苦笑する。


あ、京介くんも気付いた…?
そしたら義人くんも一磨さんも翔くんも
まるで最初からそうなってたみたいに
横一列だった陣形を変え、風船を持つ
私たちを囲んで送り出す。

小さな子たちへの風船のプレゼントを。

それは元々は私だけの役割で、Waveの
皆さんは小さなお菓子袋を会場の人々に
配る役。大きな籠はちょっと重たいから

…でも、皆さんそんなの感じさせもせず
会場中を駆け巡り、整理された通りに
並んでくれてる皆さんに配り回って。


「メリークリスマス! アーンド
良いお年を!!」
「5周年おめでとう、来年も再来年も
そして10周年も20周年もまた呼んで
下さい!」
「そん時幾つだよ。俺ら。」
「いーじゃん、その時はダンスでなくて
椅子に座ってトークショー?」
「長くなりそうだな…。」


最後の挨拶では、Waveの番組内の
MCみたいに笑い合って。
私も「是非また来年!」って笑いながら
私に向かって、風船を持つ手を振って
くれてる子供達に手を振り返して。

会場の皆さんの優しいコールに頭を下げ
クリスマスの独特なカラーで煌びやかな
ステージを後にしたのだった。



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