Event 1

□たった一言。
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【 たった一言。 】


『お誕生日おめでとうございます』

『Happy Birthday! 』

『貴方に会えて良かった』

『生まれてきてくれてありがとう』

『夏輝さんのこの年が、素敵な事で
埋め尽くされますように』


伝えたい言葉は沢山あるのにその表現が
難しい。国語の成績は中の上、そんなに
得意な方じゃなかった。

小説家志望の私の親友、ななちゃんなら
もっと素敵な言葉で綴るんだろうな。

そんな事を考えながら何度も何度も
ペンを握り直し、紙を替え、色を変え…
いつの間にやら控室のテーブルの上は
溢れた文房具だらけ。


…ん〜………

どうしよう。

どう書こう。
何て書くのが1番伝わるかな。

書いては消し、消しては書いて…
そうしてる間にまた紙がヨレちゃうから
また新しいカードを準備して。

あっ、もうこんなに書き損じちゃった?

どうしよう
どうしよう



「うっはー可ぁん愛い〜ぃ♡」


――へ…?

ふと顔を上げればそこには冬馬さん。

えっ、何で此処に??
こ、此処って映画ロケの控室で…
更には今回のメインキャストである、
天才子役のまどかちゃんの泣き待ち中。
暫く時間が掛かりそうだからって、私は
個人控室に休憩(仮眠)と称して籠らせて
貰ってた筈。


「え…っ、え? えぇっ?!
とっ、冬馬さん…っ?! 」

「あーい、呼ばれて飛び出て
ジャジャジャジャ〜〜ン♪ 」

「ハクション大◯王かよ。」

「えっ、あっ、秋羅さんまで!」


――って事は夏輝さんも?!

アワアワとその場で広げてた紙やらペン
やらを必死で掻き集めようとしたら。


「あー、夏輝と春は監督らと挨拶中。
だから慌てなさんな。」
とは秋羅さん。

「へっ? え…あっ、もしかして皆さんが
此処にいらっしゃるのって、この映画の
挿入歌、決定したんですか?! 」

「そうそ。咲ちゃんが言ってた通り
あの後すぐオファーがあってさ。
なっちゃんはキミ関係は全てGO!だし
春サマも今回乗り気だったみたいでさ。」

「おいおい、夏輝がGOっつーより監督の
超強い希望で、珍しく春が押され気味
だったんじゃなかったか?」

「あーもう、秋羅サンそこはホラ、
咲ちゃんになっちゃんの咲ちゃん
命ぶりアピールしとかないと。」

「しなくたってよぉーく知ってんじゃ
ねぇか。つか誰かさんも誰かさんに
心底ゾッコン!って奴だろ。
見ろよこのカード。」

「『生まれてきてくれてありがとう』?
うっわ、何でコレで書き損じ?
なっちゃん涙チョチョギレで喜ぶよ?」

「わわわ! だっダメです! やめて〜っ
見ないで下さい〜〜っ!!」



「咲ちゃんっ?! 」

「…何をしているんだ、騒がしい。」


バン!と控室のドアが勢い良く開いたか
と思ったら慌てた夏輝さんとその後ろに
悠々と歩いて来られた神堂さん 。

私は はわわ!ってなって、慌てふためき
テーブルの上のカードたちを掻き集め。


「咲ちゃん…?」

「あーあ、もう、それじゃ逆 逆!」

「えっ?」

「ほぉ〜ら、なっちゃん不安になるコト
なーんて無いんだよぉ〜?」


そう言って冬馬さんはいつの間に抜いた
のか、私のカードを夏輝さんの目の前に
ヒラヒラ。


「あっ、冬馬さんダメぇぇぇっ!」


書き損じのカードを贈りたい相手本人に
翳された私はピョンピョンと飛んで、
必死に冬馬さんの腕にタックル。


「咲ッ?! どうし…
ちょ…っおい、何やってんだお前。」


騒ぎを耳にしたのだろう、この映画の
主役である隼人さんが開いたままだった
控室の扉を掴み走り込んで。

冬馬さんの腕にぶら下がる様になってる
私を見て、溜息。


「は、隼人さん…」

「ノンノンノーーーン。咲ちゃん、
この場面で他の男の名前なんか呼んじゃ
ダメっしょ?」

「え?」


ヒョイ。


――え…?


軽い感じで抱き上げられて。
冬馬さんかと思いきや、その逞しい腕は
夏輝さんで。


「白鳥くん、心配かけてごめんね?
他所の現場でウチのバカが騒がせて。」


チラリと冬馬さんを見る目はいつもなら
ちょっと厳しめなのに今日は笑ってて。


「イヤン なっちゃん、顔脂下がってるぅ
イヤラシ! このスケベ。(笑)」

「当たり前だろ。」

「ななな夏輝さん…っ」

「ほいほーい、皆さんお騒がせ〜♪
ではこのバカップルを二人きりにして
あげましょーかー! ぬはは、実は本日、
ウチのリーダーの誕生日でねぇ。
この嫁ごったら、こぉーんな可ぁ愛いー
カードを書きカキしちゃってんのよ♡」


そう言って、私の書き損じをバラバラと
皆さんの前に広げる。


「きゃーーー! ヤダやめ…っ」


真っ赤になって夏輝さんの腕の中から
必死に手を伸ばす私を抱えたまま


ザザッ

夏輝さんがカードからペンから何から
全部 傍にあった紙袋に掻き集め。


「ダメ、全部俺の。」


そう言って笑った。


「おやおやおや、なっちゃんたら欲張り。
…んで? ホラ、咲ちゃん
悩んで考え抜いた一言は?」

「えっ?! 」

「ムチャ振りしてやるなよ…。」

「ほらほらホラ! なっちゃんに一言♡
いっちばん伝えたい事は?」

「えっ、えっ、え???」

「ほ・ら♡」


チラリと見上げれば夏輝さんがこっちを
ジッと見つめてて。
尚更 はわわ!となった私。



「だ…っ、ダイスキ…っ」






「…おい、」
「そっち?」
「このバカップルが…」
「……。」



「え、あっ、ヤダ…っ」


咄嗟に口を突いて出た事とはいえ、
あまりの事に穴があったら入りたい…っ

そう思って、自分最大のトホホな顔で
貴方を見れば…

そこには嬉しそうな、
はにかんで優しげに笑う貴方の顔。

貴方の色んな顔を知ってる私でもキュン
となっちゃう、その笑顔。

思わず誰にも見せたくなくて、貴方の
腕から伸び上がって抱き締める。


「咲ちゃん?」

「み…っ見せちゃダメ…」



そのまま貴方に私も抱き締められて、
二人で抱き合って……気が付けば
控室には二人きり。


アワアワして
真っ赤になって

でも、貴方を見れば心底嬉しそうで
今日はもうそれでいい

なんて。





Happy Birthday NATSUKI ORIHARA♡
xxx 06.06.2017




end.

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