Event 1

□カップル
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【 カップル 】


それは、とある楽屋。
秋の恒例特別番組の収録の際の出来事。

咲は珍しく同世代の女性アイドル
グループと一緒に、局の豪華弁当を
食していた。

いつもなら、彼女ほどの人気と年次なら
個別の楽屋が準備されていたし、それに
よくある光景として彼女は彼女と仲の良い
国民的アイドルグループ、Waveと
過ごしていたり、或いはこの様な大きな
番組にならトリとして呼ばれる事も多い
カリスマロックバンドJADEとのコラボ
またそのリーダーとの公表済の交際関係
などを理由に一緒の楽屋で過ごす事が
多かった。

しかし、今回はJADEは海外ツアー中で
収録ながら現地からの映像での出演と
なっており、また番組目玉の海外からの
客演が大所帯(団員、と言われる規模)
のグループであった事もあり、年若い
彼女は同世代の女性アイドルグループと
同じ大部屋となっていたのである。

…以前なら、あまりの彼女の恵まれた
幸運さと人気へのやっかみで所謂お局的
先輩歌手などからのイジメと思わしき
仕打ちを受けていた咲だったが、
公表と共にJADEの庇護声明もあった為
明らさまな嫌がらせを受ける事は少なく
なっていて…元々の気質もあって最近は
他の女性タレントともこうして話してる
姿もよく目にする様になっていた。


「えー、またケンカ?」
「だってぇ…アイツまた私の手料理に
ケチつけたんだもん。だったら自分で
作れ!って言っちゃったー。」
「あはは、そりゃ言うわー。こちとら
仕事してたまの休みなのに尽くして
やってんだから感謝して欲しいよねぇ」
「そうそ。そりゃ料理上手な方じゃない
けどさぁ、でもソコは愛情じゃん?」
「だよねぇ、ちょっとくらいしょっぱい
とか味薄いとか、そんなの愛情で笑顔
浮かべて食べてよねぇ?」
「そうそう、焦げてる部分なんて削いで
剥がしたらイケるんじゃん?」
「えー、それニガそ〜!」
「ゆーこぉ、…ソレ、料理として
ダメなんじゃん?」
「えー?」

「あ、咲ちゃんお料理上手だよね?
どー思う? こーいうの。」

「え…っ? え、ええっと…お料理にも
よると思うけどある程度相手の好みにも
合わせてアレンジしてみるっていうの
どうかなぁ…?」

「アレンジ?」

「うん、自分の好みが薄味でも相手が
濃い味なら、カレー粉とかの香辛料で
味を足してみる…とか。」

「へぇ…! そっかぁ、カレー粉なら
美味しいかも! ありがと咲ちゃん」

「イイなぁ、咲ちゃんお料理は上手
だし可愛いしさぁ、おっぱいも大きいし
男ならもうメロメロだよねぇ。んね、
夏輝もそうなんじゃん?」

「や…っ、あの、ど、どっちかと言えば
私の方がメロメロ…」

「きゃー!! 言ったよ!
恥ずかしがり屋の咲ちゃんが!」

「うっわーぁ、やっぱ優しいの?
夏輝ってそんな感じだもんねぇ?」

「…ウン。」

「やーん! 惚気? ノロケられてんの?
もうっいくら公認の仲だからって〜!」

「ち、違…っ」

「『結婚を前提としてのお付き合い』
って発表したじゃん。アレってさ、もう
プロポーズまでされてんの?」

「や、そ、それは未だっていうか…」

「きゃー!! じゃあこれからだ!」


真っ赤になった咲を囲んで楽屋での
女子トークは留まる所を知らない。
キャーキャーと騒がしい賑やかさだ。

でもそこで言われた言葉が、彼女の中に
大きな波紋を起こした。


「でもさぁ、咲ちゃんって夏輝と
ケンカとかすんの?」

「え、し…しないよ?」

「えっ」
「ホントに?! 」
「そんなカップルって居るの?」
「年の差だから?」
「えー、そんなのオカシイよー」
「そうそう、本音で話してたら何かしら
ケンカくらいするでしょー?」

「え…、」

「もしかして自分が年下だからって
年上の夏輝に遠慮してたりする?
咲ちゃん」

「そんな事は…っ」

「アヤシイなぁー咲ちゃんってつい
相手の意見に合わせて流されちゃいそう
だもんねぇ」

「へっ?! そ、そんな事ないよ?」

「えーでも、もう…2年、だっけ?
そんなんでケンカ一つないって、
あり得なくない?」

「…そんなもの…?
わ、私、夏輝さんしか知らないから…
そんなケンカするものだとは…」

「あっ、咲ちゃんって夏輝が
初カレってホントなの?! マジで?」

「うん…。」

「うっわ、マジ? なんでぇ? 女子校?
マジであり得ないよねぇ?
このスペックで!」

「…ってかイイの? 咲ちゃん、
夏輝しか知らないまんまで。」

「それ言えてるぅー!」

「そりゃJADEの夏輝なんて高スペック
相当アタリだけどさー、でも他も一応
見てから決めた方が良くない?」

「っていうか、ケンカはした方が良いよ
相手の裏面とか本音とか、そういうの
見える貴重な機会だからー。」


そんな、同世代の女子の容赦ない鋭い
指摘に…ついタジタジとなってしまった
咲。


――確かにそう言われれば
そうかもしれない…。


そんな不安が彼女の胸の内にモヤモヤと
広がっていくのだった。


彼が傍に居ない、この時だけに。



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