Event 1

□カップル
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「ただいま。」

「おかえりなさい…っ」


約3週間ぶりの逢瀬。
…とは言っても、公認の二人はもう既に
同棲関係にあるから、正確には逢瀬では
無いのだが。

気分的には一緒に住んでいるからこそ、
久しぶりに逢えた感慨は一入だ。


「ヨーロッパは寒かったですか?」

「うん、もう雪がチラついてる場所も
あったよ。ほら、コレその写真。」

「わぁ…かなり曇ってどんよりして
見えるのに、雪だけ真っ白なんですね」

「うん、これって日本ではあまり見ない
色彩だよね。だから咲に見せたくて。
現地スタッフに『そんなに感激する景色
ですか?』って訊かれたよ」

「わ…、そうだったんですね…。」


こんな時、しみじみと彼が好きだと思う

何気ない一言、何気ない気遣い、
そんなの一つ一つに彼の愛情を感じて。

じんわりと温かく感じる彼のスマホの、
その寒々しいのに温かい写真を見ながら
この温もりが愛しいと。


「…この間の中継、素敵でした!」

「ん? ああ、あの特番の。
こっち側からはそっちの状況は音でしか
伝わらなくて残念だったよ。
昨日冬馬が放送落として来てたけど。」

「あ、じゃあ見たんですか?」

「うん、もちろん。
可愛かったね、ハロウィンの衣装。」

「あっあれは急遽モモちゃんが…っ」

「可愛くて色っぽくて、その場に居ない
自分を呪ったよ。」

「の、呪…っ?! 」

「だってさ、周りの連中はあの咲の
小悪魔コスチューム姿、見てるんだよ?
俺の咲なのに。」

「たっ唯の衣装、ですよ?」

「衣装でも、っていうか衣装だから?」

「へ?」

「普段なら胸元あんなに開いてたり、
背中も素肌に編み上げとかしないのに」

「あっあれは羽を付けるのに重くて
縫い付ける訳にいかなくて…っ」

「それでも。」


ギュッと抱き締められて背中を撫でられ
まるであの時の羽の痕を探すように。


「な、夏輝さん…っ?」

「もうさ、冬馬は『可愛い可愛い』連呼
するわ、秋羅が後ろの連中(雛壇に並ぶ
出演者)の視線が咲にロックオンだな
なんて言うから…気が気じゃなくて。」

「そそ、そんなのっ私より露出度の高い
女の子たちいっぱい居ましたからっ」

「そんなの目に入ってない。」

「っ!」

「画面の隅っこでも、咲が映れば
咲にしか目は行かなかったよ。」

「…夏輝さん…。」


夏輝さんの腕の中、彼の背中にそっと
回した手でギュッと抱き寄せようとした
その時。

夏輝さんの背後の玄関扉が音も無く開き
現れたメンバーさん。


「は〜い、そーこーまーでー!」

「きゃ!」

「…このバカップルが。」

「どうやって入って来たんだよ!」


ニヤリと笑った冬馬さんの手には4枚の
飛行機チケット。荷受け票付きの。

何故か階段状に曲がったそのチケットを
ひらひらさせ、私にウィンクする。


「んなの扉が閉まり切る前このチケを
オートロックんトコに滑り込ませて、
ドアロック自体掛からせ無かったに
決まってんじゃん?…つーかさぁっ、
何でなっちゃんは階まで一緒に上がって
来た俺らを閉め出しちまうワケ?」

「『一緒に上がって』じゃないだろ!
お前が勝手に!強引に!エレベーターに
抉入って来たんじゃないか!」

「そーそー。俺らも引っ張り込んで、
勝手に階も押してな。」

「…すまん、止めるには止めたが
疲れ切った身では止められなかった。」

「や! あのっ別に迷惑じゃ…っ」

「迷惑! 真っ直ぐ帰れよ自分家にっ」

「わーなっちゃん、心狭ぁ…。」

「はあ?! 」

「だって俺らも咲ちゃんへの土産
あるって言ったじゃん。本場欧州の
ハロウィン限定よ? 今が旬なのに、
今!渡さないでいつ渡せって?
ほーら咲ちゃん、Trick or Treat!」

「お前が言うと洒落にならん。」


そんな神堂さんの呟きもスルーされ、
渡されたのは、色とりどりのハロウィン
グッズ…?に、お菓子?


「わわ! あっありがとうございますっ
こっ、こんなに?! 」

「そそ。
まーくんと咲ちゃんママにもね」

「え…? 弟はともかく、母にも?」

「うん、美味しいご馳走くれるから♡ 」

「…お前っ、いつの間に?! 」

「ヤダなぁ、なっちゃん? こないだの
咲ちゃんからの差し入れのお重、
一部咲ちゃんママ作だって咲ちゃん
本人が言ってたろ?」

「あ…、そう言えば…」

「まさか、それで? うわぁ冬馬さん…
ありがとうございます…っ」


両手いっぱいの大きな紙袋を覗き込み
ながらそう言えば、ふふん、と得意げな
冬馬さん。


「お返しは大切な大人の礼儀でしょ?」

「…普段そんな事しもしねぇのに」

「んー? 聞こえねぇなぁ秋羅?」


「……。」


玄関先で夏輝さんの背後にニコニコの
冬馬さん、呆れたように扉に凭れて立つ
秋羅さん、仁王立ちで、でも見ように
よっては途方に暮れている様な神堂さん

そんな状態で。

私はハッとして居住まいを正し、
皆さんを中へとお通しする。


「あの…もし宜しければご一緒に食事、
如何ですか? あの…もしかしたらと
思って多めに作ってあるんです。
日本食はお久しぶりですよね?」

「咲…っ」


「いや…俺らは」
「ひゃっほーい♪ さっすがは俺らの嫁
俺らの事、分かってるぅ〜♡ 」


神堂さんの困惑した言葉を途中で遮り
大袈裟に跳ね上がった冬馬さんの腕に
抱き上げられる。


「うわ、バカ、調子乗り過ぎだ」


そんな秋羅さんの声と共にガン!って
硬い音と体の揺らぎ、それからぐるりと
視界が回る。


「わわ…っ!」


落ちるのかと思って慌てて捕まえたその
肩は夏輝さんので。


「…食事だけ、だからな!」


そう言って私を抱え上げたままズンズン
リビングへ向かって行く。


「あ、あの…夏輝さん」

「何?」


その低い声で、夏輝さんの気持ちを量る

…きっと、ツアーで疲れた心と身体で
楽しみにしてくれていた二人っきりの
時間だったのだと。

だから


「――ごめんなさい。」


そう耳元で囁いた私に


「(…あとでお仕置きね?)」

「へ…っ?」


逆に耳元で囁かれたあなたの低い声。

その言葉にはギョッとしても、
私を抱えたその手は優しく私の背中を
ポンポンと撫でてくれて…

結局怒ったのかと思っても、こうして
貴方は私を甘やかすからケンカにも
なりはしない。


…ねぇ、これって本音?
それとも私に合わせてる?

この甘やかさにキュンと来ても
頭の隅で思ってしまうの。


こないだの、言葉がチラついて



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