Event 1

□イタズラしちゃうよ?
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【 イタズラしちゃうよ? 】



「咲ちゃん、およめさんになって!」

「へ…?」


今日はハロウィン。
今撮影中のドラマで、私は保育士さんを
している女性の役柄。
だから今回は沢山の子供たちに囲まれて
お仕事をしている。子供たちは可愛くて
毎日ハプニングが続出だけど現場は凄く
明るくて楽しい。
もう撮影も重ねて子供たちともだいぶ
仲良くなったから、今日は…その、最近
少しだけ空いた時間にハロウィン用の
お菓子を焼いて来ていて。撮影とは別に
ちょっとしたイベント(お楽しみ)を
サプライズ。

もちろんそれは大人のスタッフさん達も
笑顔でノリノリで。…実は今まで何度も
ご一緒させて頂いてるお仕事で、監督が
こういうサプライズが大好きなのはよく
知っていたから私も便乗したんだけど、
まさか衣装さんも結託でのこんなにも
大イベントになるなんて!って位の
クオリティ。

密かに準備されていたケータリングも
ハロウィン仕様。

そんな中、共演者の子役さんたちに
一つ一つ手作りお菓子を手渡していたら
その手をギュッと掴まれてされた、
可愛らしいプロポーズ。

お相手は5歳のいっくん。


「あらら、いっくんのおマセさん!
咲ちゃん子供にもモテモテねぇ♡
どーする? 若ぁい旦那さん、今の内に
キープしとく?」
「いっくんなら将来有望よー?」
「そぅそ。劇団すずらんのホープだもの
5歳にして芸歴5年の超ベテラン!(笑)」


そう、いっくんは0歳の頃からオムツの
CMや、某大手玩具メーカーのイメージ
モデルをしている子役さんで。
5歳にして出演ドラマも両手で足りない
程の人気者。年次で言えば4年目の私の
先輩、とも言える子で。

実は今回が初共演じゃなくって、ドラマ
以外でもバラエティでも共演する事が
度々あって。

その度に『咲ちゃん大好き!』
って言ってくれて懐いてくれて、既に
あちこちの現場ではいっくんと私が
仲良しなのは周知の事実。

でも流石にプロポーズは初めてで。

私は微笑ましくて、
でも答えに少し困って
屈んで目線を同じくして言った。


「うん、ありがとういっくん。
私もいっくん大好きよ?…でも、
お嫁さんはいっくんがもっと大人に
なった時にまた考えよっか。」

「まだ、ダメ?
いっくんがこどもだから?」

「え…えーっと…」

「あはは、熱烈ねぇ。
咲ちゃんどーするぅ?
いっくん本気の本気よ?」
「こんなに熱烈に口説かれちゃったら
キュンキュンしちゃうよねぇー」


皆さんに面白がって囃し立てられて。

…でも、目の前のいっくんの瞳は
何処までも真っ直ぐで、本気。
し、しかも涙目になってて…
今にも泣きそう。

ど、どうしよう…?


内心アワアワしてたら、軽いゲンコツが
ゴチンと頭の天辺に。


「あいたっ」

「何やってんだ。」

「隼人さん…っ」

「はやとさんっぼくの咲ちゃん
イジメちゃだめっ!」

「わぁ、可愛いナイト♡」

「誰が『ぼくの』だ。俺んだろ。
ヒトの女口説くなんて10年早ぇぞ、
樹(いつき:いっくんの本名)。」

「はっ隼人さん…っ!」


撮影中でもないのに言われた、あまりの
台詞に思わず真っ赤になったら、皆して
意地悪な笑顔でニヤニヤして。
その中心はもちろん隼人さんで。


「だろ? 奈津江は俺の女なんだから」


奈津江と言うのは私の役名。
今回のドラマは私演じる奈津江とプロの
ボクサー目指してるんだけど負け続きで
貧乏な青年、大和(ヤマト=隼人さん)の
恋愛ドラマだ。一言で恋愛ドラマだとは
片付けられない、複雑な人間関係や辛い
過去からの脱却や成長を含むヒューマン
ストーリーでもある。

私、奈津江は高校からの付き合いである
収入も安定しない大和を、それこそ心身
共に支えながら保母さんをしている。
そこに、サラリーマンをしながら一人で
子供を育てているいっくんのお父さん
(相馬さん)に気持ちを寄せられ、揺らぎ
ながら、成長し愛を育てていくお話だ。
今年の秋話題のドラマだった。


「あっらー三角関係ねー(笑)
お父さん(相馬さん)も含むと複雑な
四角関係かしら」

「もうっ、天城さんも面白がって!」

「あはは、
咲ちゃんごめんごめん!
でもコレ、番宣的にも良くない?
あっねぇ監督ぅ、番組SNSで今のUP
しときましょうよー」

「おっ、いーなソレ。ヨシ、許可。」

「えっ? 監督?! 」

「――こうなったら止めらんねぇな。
基本、あの監督楽しめりゃ何でもアリ
だからな」

「もー…」

「おい、お前ちゃんと休んでるか?
近くで見るとクマ、酷ぇぞ。」

「もうっ、コンシーラー何重にも重ねて
一生懸命隠してるんですから隼人さんも
そんな近くから見ないで下さいっ!
エッチ!」

「エッチ、ってお前なぁっ
役者は体力が資本だってあれほど
口酸っぱく言ってやってんのにお前は
何やってんだよ。…って、お前…何
真っ赤になってんだ。」



そういう隼人さんこそ耳が赤いのに、
でもそんなの今指摘したら…それこそ
隠れ照れ屋な隼人さんのご機嫌を損ねる
のは確実なのは経験で知っていて。

だから私も毛穴までチェックされそうな
隼人さんの鋭い視線を逸らすべく、
隼人さんにもハロウィンのお菓子を
ポンっとお渡しして。


「何だよ、この隼人様をガキ扱いか。」

「そんなんじゃないですっ
もうっ素直に貰って下さい!」


そう言って苦笑して、皆でハロウィンの
お菓子を摘みつつ、撮影は再開されたの
だった。



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