Event 1

□噂と嘘と悪巫山戯
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【 噂と嘘と悪巫山戯(わるふざけ) 】


「ねぇねぇ、咲ちゃん!
ホントのとこ、どーなの?」
「本命はJADEの神堂さんだったんじゃ
なかったの? 一時はWaveの中西くんと
親密な様子が報道されてましたよね?
同じマンションなんでしょ? 最近急に
色んな噂が引きも切らず出てるけど、
どれも信憑性が無いのは、本当はあの
写真に撮られてた同級生と熱愛を隠す為
なんて話もありますが?! 」
「ねぇー咲ちゃん答えてよ!」


急にこんな風に周りが騒がしくなった
のは、そろそろ桜がチラホラ咲き始めた
頃だった。

写真に撮られた、私ソックリの女の子
(眼鏡とマスク付き)と、彼女と手を繋ぎ
微笑み合い何処からどう見ても明らかに
彼氏彼女の距離感で寄り添う男の人。
二人は人目を気にしてるようでいて、
でも沢山写真を撮られてて。

…そう、ソックリと言ったのは本当に
私じゃ無いから。…でも何故かその目撃
情報や写真の日付は見事に私のお休みの
日に被ってて、山田さんにも散々本当に
私では無いのかと確認されてしまった。

このお仕事をし出してから、お休みの日
あまり繁華な街中はぶらつく事をしなく
なった。以前見ていた物や何気にして
いた事を逐一話題にされてしまった事が
あり、怖くなって出来なくなったって
いう事もあるけど、偶のお休みくらいは
デビューしてからは放ったらかしの弟、
まーくんと一緒に過ごしてあげたくて。

だから、山田さんにはまーくんを証人に
信じて貰えたのだけれど。

マスコミにはそうも行かない。
肉親の証言なんて信憑性が無いと一笑
されるのがオチだとは山田さんの弁。
それにまだ未成年のまーくんをそんな
マスコミの前に出すなんてしたくないし
…そんな訳で、事実無根なのだから噂が
鎮火するまで放って置くつもりだったの。

でも

次々と撮られる写真。
やはり私の休みの日に。
しかも予定があって外に出てる時には
撮られる事なく。
…こうなると被写体の彼らの意図的な
物を感じない訳には行かなくて、犯人、
というか意図を探る為にもあらゆる取材
にもノーコメントで対応している最中
だった。


「…咲ちゃん、まだあの噂、
っていうかあの二人写真に撮られてた
みたいだけど大丈夫?」


流石に閉口して、彼らの正体を1日でも
早く突き止めたく思って来た頃、この
騒ぎでスケジュールが押しがちで来れ
なくなっていた神堂さんのレッスンに
久々に来ていた。


「…夏輝さん…。」


前に来た時に話していた事からご心配を
お掛けした事が情けなく、また探りの
無い優しいお声掛けにちょっと弱った
気持ちはウルウルと涙腺を緩ませた。


「っ、ちょ…咲ちゃん、
大丈夫? 取り敢えず座って。」


私の緩んだ顔を見て、焦った夏輝さん。
アワアワと両手を一瞬バタつかせ、私の
肩を優しく抱いて側にあったソファへと
座らせた。

その廊下に響く、冬馬さんの明るい声。


「あーいっけないんだー。めっずらし
なっちゃんが女の子にお触りしてる♪ 」

「お触りじゃないっ!
…ってかそんな巫山戯てる場合か!」

「や…っ、すみませ…」

「おわ、咲ちゃんマジ泣き?
なっちゃん何かした?」


慌ててハンカチで涙を拭った私を見て、
冬馬さんが目を丸くして私の手を取った。


「や、ホント違うんです。夏輝さんの
お顔見て安心しちゃって…その、最近
マスコミの方々に追われてばかりで…
ちょっと参ってたものだから…」

「あー…アレ、ほんっと上手い事化けて
謀ってるもんなぁ。あれ主犯はどっち
かな、女の方? それとも男かな。」

「えっ、化けて…って…」

「えー咲ちゃん、アレまさか
偶然の一致で他人の空似とかって思って
ないよね? マスクの下はどうだかって
感じで、どー見ても咲ちゃん
真似て、つか似せて寄せてんじゃん?
メイクもだけど持ち物や服装とかも。
だからアレ間違いなく故意だろ、って
俺らも話してたトコ。」

「それって…」

「うん、山田さんとも話したんだけど
多分、咲ちゃん人気を潰したい
不届者、つまりはライバルとか?」

「え、え…っ? まさか…冬馬さん、
あの人達の正体知ってるんですか?! 」

「冬馬?! 」


初耳だ、って言うように声を荒げる
夏輝さん。その声を聞きつけスタジオ
から出て来た秋羅さんと神堂さん。


「どういう事だ、冬馬。
お前の知ってる事を包み隠さず話せ。」


今回の経緯を山田さんからの報告で全て
知っている、私のプロデューサーである
神堂さんの声が硬く言い放つ。


「まぁまぁまぁ、待て待て。
ちょっとコッチも色々謀ってっからさ
もーちょっと待てって。」

「何か握ってんならさっさと動いた方が
早ぇんじゃないのか? …これ以上待て
って、今でもかなり限界だろ。実際、
ここに来てこんな状態にまでなってん
だから。」

「ありゃー、秋羅も咲ちゃんの
涙には弱ぇか。まぁ、だよな?
咲ちゃんがスグ女の涙使える娘
ならそうもなんねぇけどなー。」

「そう言うお前もだろ。」

「まぁね。…だから『待て』っつってん
だろ。――な? 咲ちゃん、
楽しみに待ってな。」


その冬馬さんの笑みはいつもの明るい
笑顔と同じ顔の筈なのに何故だか背中に
ゾクっと来て…。
私は思わず涙も引っ込んだのだった。



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