Event 1

□Card
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【 Card 】
(カード:四角い紙、手札、ゲーム種類)



大好きな夏輝さん

そんな彼の誕生日。



いつも貴方のお誕生日、プレゼントに
付けて渡す、手書きのメッセージカード。

毎年悩む。
なんて書こうか

伝えたいのは『おめでとう』という
お祝いの言葉と…また一緒に祝える事が
嬉しいって事。
それからやっぱり毎年改めて伝えたい
『大好き』の気持ち。

…3年前にフライングの冬馬さん登場で
私のこの毎年の裏側はバレてしまった。
誰の目にも付かないように隠れて隠して
下書きしてたカードの山。

実は毎年恒例でいつも書いては消し、
ヨレては書き直して…今年からは特に
心行くまで書いた物の中から一番の出来!
のカードを渡したいって頑張ってて。

…と言うのも、知ってしまったから。
夏輝さんが私の書いたカード、小さな
付箋も含めて取ってくれてるの。


偶然見てしまった夏輝さんの宝箱。
それは皮張りの、如何にも職人さんの
手の込んだ箱。…高級そうで、大きさも
厚みもあって…てっきりその大きさから
時計とかアクセサリーとかが入ってると
思ってたの。


ついこの間、ツアー遠征で二週間程留守に
してた夏輝さん。

それを見つけたのは別に()探しをしたとか
では無くて、夏輝さんが
大事にしてるブレスを忘れた!と言って
連絡が来たの。
『多分家に忘れて来ただけだと思うんだ
けど、あるかだけ確認してくれる?』
そうメッセージが来てて。
洗面所、玄関の靴箱の上、お仕事部屋の
机の上のトレイの中、寝室のベッド周りと
サイドテーブルの引出し。

そういった所を探してて、夏輝さん本人の
許可を得て開けた机の引き出しの中。

『見られて拙いものなんか何も無いから
全部見てもいいよ?』

探すのに勝手に弄って良いのかを訊いた
私に、貴方はそう言って笑った。

私はその全面的な信頼に擽ったい思いで
頷いてアチコチを捜索した。

結局家の中では見つからず、それを聞いて
焦って探し捲って(たらしい) 夏輝さんが
ツアーに着て出てたコートの内ポケット
から出て来てホッと一息…ってなったの
だけど。

…そのブレスレットも、私がプレゼント
した物で。…その前日 家に帰り着き、
手を洗おうとして外してポケットに入れ、
その後ドタバタしてて忘れてた、って
オチだった。

そう、…その朝も…その、離れ難くて…
つい二人してイチャイチャしてて時間が
ギリギリで…なんて裏事情の罪悪感も
あって私も必死で探して。

その時に見つけた、素敵な箱。
引き出しに、大切そうに仕舞われたそれ。

革に直接意匠が施された美しい箱なのに、
棚の上には出さず、引き出しの中丁寧に
仕舞われていた。
ブレスレットも大切にしてくれてたから
もしかしたら、こっちに入ってるかも…
なんて思ってそっと開けた。
人の宝箱を勝手に開けるのはどうしても
抵抗があったから、本当にチラリ、中に
ブレスレットが入って無いかだけを確認
するつもりで。

…そしたら、中にあったのは沢山の手紙。

一瞬、見てはいけない物だと思った。
…その、過去の、捨てられない大事な物
だと思ったから。

でもふと気づく。
一番上の、小さめのメモ…付箋?
それは私が愛用してる、可愛いミィちゃん
ソックリの白い猫の描かれてる付箋で…

あれ…?
コレ、もしかして…私が書いた…?

大した内容じゃない。
その日、私が帰るより早く家に着いてる
夏輝さんに…お帰りなさい、も言えない
からせめてメッセージだけでも…と扉に
貼ってた物だったり、ほんのちょっとした
悪戯心でナイショに彼の靴に貼り付けてた
メモだったり。

記憶にある限り、一緒に棲む前からの物が
大事に取ってあった。もちろんお誕生日の
メッセージカードも含めて。中にはもう
折れて黄ばみ掛かっている物もある。
それでも丁寧に重ねられて入ってて。

…ただ、一番下は見なかった。
今は私だけなのは分かってるけど、彼に
前の彼女が居たのは知っていたし、もしも
それを見てしまったら…気にしない、と
言いつつ自分が気にするのは分かり切って
いたから。

何でもない日の、私の些細な言葉たち。
それを大事に取っていてくれる貴方の
愛情深さに感動して…それと同時に彼の
過去、彼のその為人(ひととなり)故に…私と同じく
大切にされて来た彼女(たち)に胸を焼き。


…元カノさんの手紙とかカードとかを、
見つけた訳じゃない。
上から見えた私の手紙、カードの量と、
箱の底の深さから、もしも元カノのが
あったとしてもほんの数枚程度だとは
思ったけれど、でも逆に数枚ならばそれは
大事にしてしまう程の濃い思い出だったり
するのかも…と思ってしまって、改めて
見る勇気は無かった。

それ以前に、許可があるとは言え、
人の宝箱を漁るなんて…って罪悪感も
あったし。


――うん、夏輝さんが私のメモすら大事に
してくれてた。…その事だけを大事に心に
仕舞おう。

彼の深い愛。
優しく愛情深い彼。


ツキン、と痛む胸の奥は無視して、私は
改めてペンを握った。

あんなに大事にして貰えるのなら尚更。
一生懸命書こう。


彼の為に
彼だけの為に。

彼を想って。




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