Event 1

□1122
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【 1122 】


11月22日。
この日は何の日?

俺にとっては彼女とそうなりたいって
心底思ってる、『イイ夫婦』の日。

まだ、ちゃんと捕まえ切ってない、
可愛い人、愛しい君。

かなり…そう、自意識過剰じゃなくて
本当に彼女を見てると分かる、彼女は
きっと、俺のこと、意識してる。
そう、憧れの人? それとも男として?

…何にしても、彼女の周りに居るどの男
よりもずっと近い距離で。
あ、山田さんはちょっと別にして。

素直な彼女は最近はその様子も明らかで
春のレッスンを受けにJADEスタジオに
現れた時なんて、スタジオに顔を出し、
真っ先に目が俺を探すんだ。
スタジオ内をぐるりと見渡して俺を見つけ
明らかにパァッと花咲くように輝く表情。

…もう、もう、もう…!
それが本っ当〜っに可愛くて!

勿論、メンバーも気付いてる。
冬馬は三日月みたいな目でニヤニヤして
こっちを見て来るし、秋羅は呆れ顔なんて
しながら少し目尻が下がり、春は表情こそ
変わらないがいつも片眉を上げ、俺の方を
チラリと一瞬だけ見るんだ。

皆の心の内は分かってる。
『お前、いつ捕まえるんだ』そんな視線。
『早くしろ』『他の男に奪われちまうぞ』
『ほらほら、もう今スグいっちまえ!』
…そんな、ヘタレな俺に発破を掛ける
みたいな急かす視線も含んでて。

分かってる。
こんだけ明らかな好意を露わにされて、
嬉しそうなだけじゃない、明らかに仄かに
頬を染めた潤んだ目で俺を追う彼女を前に
ヘタレてる場合じゃない。

…そう、実は毎日、何て事の無い内容で
交わされる日々のLIN□。時には電話。
おはよう、行ってきます、ただいま、
おかえり、そしておやすみ。
今時の、若い女の子な彼女からしたら
当たり前の遣り取りかもしれないけれど
少なくとも、毎回一言二言だったとしても
こんなにも毎日遣り取りしてるのは…
彼女にそれとなく訊いたところ俺だけ
らしいから。

そう、それを訊いた時にも明らかに真っ赤
の君が浮かぶ程上擦った声で可愛らしく
『なっ夏輝さんにだけです…っ』なんて
素直に答える駆け引きなんて思いもしない
君だから、俺は…その素直で可愛らしい
好意にキュンキュン来つつ…オトナな男の
仮面をしっかり被って『…俺もだよ?』
なんてイケボを意識して言ったんだ。

正確にはまだ捕まえ切ってない。
告白もしてないし、されてない。
でもお互いに明らかにベクトルは互いを
向いてて、その熱量はただの好意を超え
『恋』や『愛』と言えるもので。

嬉しそうな君。
弾む可愛い声、増える文字数。
遠慮しぃで気ぃ遣いの彼女だからあまり
長電話や夜遅くのLIN□なんてのはして
来ないけど、少しずつ、でも確実に増えた
着信、トークの数。
可愛いスタンプ、意味深な絵文字。

…そう、スタンプも最近真っ白なネコのに
なってて『可愛いね』って返したらウチの
ミィに似てたから…って。
そんなの、他人の飼い猫を模したスタンプ
なんてわざわざ買わないよな?! とか、
え、彼女もミィを自分の家族的に捉えて
くれてる?! なんてちょっと暴走気味に
感動したりなんかして。
でも元来(こと恋愛事には特に)ヘタレな
俺はいやいや、元々動物好きの彼女だし、
ただ単に何度か会って会話にも出るミィを
可愛い、って気持ちだけでそんな深い意味
なんて無いかも…なんて思いつつ、でも
俺への返事には頻繁に使ってくれてる
そのスタンプにニヤついてしまったり。

そんな中来た、今日の日に…つい勇み足で
フライングして言ってしまったんだ。
付き合って、の言葉よりも前にプロポーズ
みたいな問い掛けを。


「今日は何の日だか知ってる?
…ヒントは…俺が君とそうなりたい日」


『え……?』


明らかに戸惑った彼女の声。

俺は一気に自分の口にした明らかな意味を
含んだフライング発言にヒヤリと頭から
冷や水を浴びせさせられた気になった。

まだ二十歳そこそこの彼女に…お付き合い
も何もすっ飛ばして、どう聞いてもそれは
プロポーズにしか聞こえない問い掛けって
幾らなんでも先走り過ぎだろ!!って。

もう、電話を挟み込んだ首や手の平は
汗でビッショリで…危うくスマホを取り
落としそうになったんだ。



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