Event 1

□ホンネ
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【 ホンネ 】


愛されてる自覚はあった。

…一応愛された経験もあるし、
そうでなくともあの子、愛情深くて…
天然で素直だしさ。

今までの誕生日だって、彼女には存分に
甘やかされ、どうやったらこんな事
思い付くの?ってばかりに心尽くしで
もてなされて来たし。

多忙な彼女。
俺も『国民的アイドルグループ』なんて
やってるから暇じゃないんだけど、
彼女の場合…事務所が小さいのと人気の
反比例で、忙しさじゃ多分…芸能界でも
トップクラス。

こんなに売れてるのにまだ出るの?って
言いたくなるような単価の安い仕事も、
賞も総ナメにして来た女優とは思えない
無茶振りで変な事させられるバラエティ
さえも未だ全力で。

…それは彼女の事務所に彼女に代わる
新芽がまだ育ってない事も大きいけど、
でも実際は彼女自身の人気の高さ。

お茶の間だけじゃない。
共演者、制作スタッフにも彼女のファン
だと公言してる連中は多くて。
きっと後輩が育ったってそう簡単には
替わらさせてはくれなさそう。

…そんな人気の彼女が、どんな気持ちで
俺の為の時間を作ってくれてるのか。


――知ってるつもりで知らなかった。


師走に入って、特番やら何やらの収録は
粗方撮り終わり、後は年末に向け皆が
海外だー旅行だーとやっとの休みに少々
浮かれて気もそぞろな月の後半。

俺はカウントダウンのイベントとか、
俺らの番組でのロケとかがあって
そんなに纏めた休みも取れなくて。

…でも、彼女との約束、俺の誕生日
まぁ、世間的にはクリスマスイブに
二人予定を合わせて何とかもぎ取った
逢瀬の時間。

今年は流石にかなり早くから山田さん
にも掛け合って24日はまるっと休みが
貰えたらしい。だから23日の夜から
二人で落ち合って誰にも知られてない
俺のセカンドハウスでまったりと過ごす
予定で居る。

俺の方も彼女の張り切った様子を見て
島田マネージャーに『今年は絶対に!
休むから!!』ってかなり早くから
念を押し、一応24日は押さえてた。

こんなの、本当はマスコミにバレる
危険性も高いし、事務所にはイイ顔
されないんだけど、まだ全然噂にも
なってなくて、それ位 真剣に二人して
隠し通してる俺らだから今年だけは
なんて甘い飴的に了承してくれた。

…いや、本音ではこれでバレたら
改めて交際を反対してやろうなんて
意地の悪い社長の視線も見え隠れして
たんだけど。


――俺がそんなヘマする訳無いじゃん。

そう言い切った俺に島田さんは苦笑して
『信じてるわよ、亮太』とだけ。

だから、ウキウキワクワク、俺は海外
どころか巣籠もり予定だけど誰よりも
気もそぞろで浮ついてて。
…もちろんそんなの、簡単には表には
出さないけどさ。

京介にも『なーに? 浮かれちゃって』
なんて指摘されたけどアイツが異様に
敏いのなんて別に今に始まった事じゃ
無いし。

そんなこんなで、今日同じ収録の筈の
彼女を探して(未だに真面目に共演者
全員に挨拶をしに行って楽屋にはほぼ
居ない彼女だから)傍目には飲み物を
買いに出た体で楽屋棟をウロウロして
たんだ。


「咲ちゃーん、今度皆で大きな会場
借りてクリパするんだけど来ない?」


…アレは今人気のアジア系グループ。
業界、特にモデル系女子で彼らに熱を
上げてる子が多いらしく、彼らの業界内
でのパーティとなれば途轍も無い人気で
パー券(パーティ・チケット)なんかは
凄い高値で遣り取りされているらしい。

そんなプレミアでも付きそうなお誘い
なのに、彼女は申し訳なさそうに眉を
寄せて『クリスマス時期全然時間が
取れそうになくて…』ってペコリ。

あいつらもそう簡単に諦める気は無い
らしく数人で囲い込み、まるでホスト
クラブの客寄せかよって。

見兼ねて助けようと足を踏み出せば、
その体躯で何でそんな身軽なんだか
是非解剖してみたい巨体が彼女をガバッ
と抱き上げた。


「ハイハイハーイ、悪質な客引きは
条例で禁止されてるからねー?」

「冬馬さんッ?! 」

「はーい、お姫様奪還〜!」

「キャッ、とっ冬馬さんッ!
降ろしてくださ…」

「ノンノンノーン!
春サマがお呼びよ、咲ちゃん。
コラボの曲順と入りを決めるってサ」

「え、でもさっき…」


そんな話をしながらズカズカと足を
進め、他の奴らになんぞ目もくれず
彼女を攫って行ってしまった。


――あの人、俺ら相手以外でも
あんな事してんのか…


俺らが彼女と話してたら必ずと言って
いい程現れるお邪魔虫、ならぬ駄犬。
賢く無い大型犬並みにワフワフと尻尾
振り切って彼女に戯れつき飛び掛かる
躾の行き届いていない様子はいつもの事
…だけど。

俺は知ってる。
彼も本音は彼女狙い。
口では神堂さんや折原さんの名前を
出しちゃいるが本当は自分が彼女が
他の男と喋ってんのが我慢ならない
ってのを。



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