Event 1

□ホンネ
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俺は探偵よろしく、二人の後を付けた。

…別に彼女の身に危険を感じた訳でも
無いし、そんな嫉妬に駆られた訳でも
無かったけど…まぁ、その…面白くは
無かったし。

今日彼女に会ったら渡してあげようと
思ってた、彼女が今ハマってるお茶も
持ってたから。

…なぁんて、正直いつも攫われてった後
あの体勢で二人でどんな会話をしてるん
だろうとか、ちょっと気になったのも
あって。


……いくら言葉を重ねたって、
妬いてんのはバレバレ。

自分で自分を揶揄してバレない距離を
取って後をついていく。
幸い二人ともまだヤイヤイ大きな声で
話してるから話は筒抜け。
それはもちろん通りすがりの人全員に。


「もぉーっ、冬馬さんッなんでこんな
荷物みたいにして担ぐんですか!」

「え、ナニナニ?
お姫様抱っこが良かった?」

「違いますっ! コレ、皆に見られて
恥ずかしいから降ろして下さいっ!」

「見られてなきゃいーの?」

「ちがっ、あっ、もーっまた揶揄って
私で遊んでるでしょう!」

「ソンナコトナイヨ?」

「あっ、ほらっその悪巧みした顔っ」

「えー? こんなに愛しい姫に
愛を込めた視線送ってるのに?」


そう言って暫し見つめ合う二人。

…だけど、直ぐに二人してプ…ッと
笑い合ってて。

なにソレ。その距離感。
ねぇ咲ちゃん気付いてる?
さっきまでは確かに荷物みたいな肩担ぎ
だったけど…今はいつの間にか赤ちゃん
にするみたいなしっかりとした縦抱っこ
に変わってんの。

恐らくきっと、人気が無くなったから。
楽屋棟の奥なんて、年配で無い大御所の
控え室しかない場所に、用も無く足を
踏み込む命知らずはそうそう居ない。

水城さんは皆に聞こえるように口説きを
巫山戯に見せて、完全にテリトリーに
入ってから本音をチラチラするタイプか
…思ったより策士だな。
気を引き締めていかないと。


…いや、奪わせないけどね?


しかも咲ちゃん?
そんな、見ようによっては恋人的な
距離感で他の男の腕の中なんて、ホント
次会う時はお仕置きだから。

そんな胸の中の黒いモヤ。

人も疎らになった楽屋棟の奥。
その自販機ブースの前で、トン!と
水城さんが彼女を降ろした。


「しゃーない、怒らせちゃったから
ジュース奢っちゃる。何がい?」

「えー、どれにしよっかな…。ふふ、
なぁんて。冬馬さん私今は喉が渇いて
無いのでツケにして下さい。今度JADE
スタジオのプリン・オ・レがいいな♪ 」

「えー、アレ坂の方まで降りなきゃ
無いヤツじゃん!」

「冬馬さん、まだハマってます?
冬馬さんが買う時でイイですよ♡」


そんな、二人にしか分かんないような
会話で盛り上がんないでよ。

あー、もう俺、ブラックサンタが降臨
しそう。


「そーいや最近買ってなかったなー
まだあんのかなアレ。もし期間限定で
もう無かったらどうする?」

「んー、じゃあ…その時はその時の
期間限定で!」

「オッケー。でも知らねーよ?
去年栗きんとん とかあったからな?」

「えっ、なんですかソレ…」

「ほら しるこ あんじゃん。
アレの栗きんとん版。」


聞いてるだけでオエッて来そうになる
(違う意味で)甘ーいハナシに眉を顰めた
時だった。


「クリスマス、忙しーの?」

「えっ、あ、…はい。」

「え、ナニナニ? ミケくん絡み?
彼の誕生日24日だったよね、確か。
じゃあさ、JADEの忘年会?23日で
どーよ。」

「あっ、えっと23日は…」


困ったように、でもしっかりと断りの
意思を示す彼女に、さっきの連中よりも
数段シツコイ駄犬の誘い。


「えー、何で? まぁ翌日のクリスマス
本番は仕方無いとして、23日はイブイブ
つーてもクリスマスじゃなくない?」

「本当はクリスマス、関係ないんです」


凛とした、彼女の声。


「24日は彼の誕生日なので…23日から
彼の事だけ考えたくて…」



――!!!


「うっわ、惚気られちった…」

「っそ、そんなつもりじゃないんです
けど…その、皆がクリスマス、って
言っちゃう日だからこそ、私だけは
彼のお誕生日の事だけ考えたくて…」

「……はぁ……尽くすなぁ…。
こんだけ想われたら本望だろ?
ミケくん。」

「えッ?! 」


――やっぱりバレてたか。


「…まぁね、知ってましたけど。
僕が彼女を大好きなくらい、彼女も
僕を好いてくれてるの。」


本当は俺の方がずっとずっと彼女を
愛してる。もうこの繋いだ手を離したら
生きていけないくらいに。


柱の影からスッと並び立ち、水城さんの
目の前で彼女の手を取った。


「カーッ、爆ぜろよリア充が。」

「二人で爆ぜるつもりですよ。
クリスマス、且つ僕の誕生日には。」

「おま…っ、こんな廊下でよく言う」

「人気が無いの、しっかり確認してたの
水城さんでしょ?」

「…ほんっと、食えないヤツ。」

「僕は食う方なんで。」

「亮太くんっ?! 」

「…ほら、行こっか。翔が待ってるよ
咲ちゃんに食べさせたい差し入れ
来てたんだって。それとコレ、はい。」


渡したのは彼女に買ったお茶。


「あっ、コレ!」

「今のハマりでしょ? 買っといたよ。」

「あっ、ありがとう!」

「どーいたしまして。じゃ水城さん。
さっきは彼女を守ってくれて有難う
ございました。…出遅れたのは癪です
けど、ベストな展開ですよね。」

「…ほんっと食えねー」

「それ、褒め言葉ですよ?」


そう言って、彼女の手を取り…少しだけ
恋人繋ぎをして、スルリとまた距離を
置いた。…今はまだ。


頬を仄かに赤く染めた彼女の頬が冷める
距離には充分。



君の心は分かっているから。
俺のものだと分かっているから。






Happy Birthday RYOTA♡
2020.12.24 xxx








end.

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