Event 1

□ハッピーDAY
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【 ハッピーDAY 】


誕生日は王様。

それは子供の頃に親に言われた言葉
…だと思う。

だと思うって付け加えたのは記憶が
定かじゃ無いから。多分親だったと
思うんだけど、もしかしたら別の誰か
たったのかも。

…何にしても、その都合の良い言葉は
俺の頭ん中にキッチリとインプット
されていて。

だからって訳じゃないけど誰かの誕生日
の時には、俺がそう言ってお祝いしたり
なんかして。

大概はメンバーにそう言った途端、飯や
ジュースをタカられるんだけど。

今日は俺の誕生日。
だから…俺も朝から王様気分で。
あ、勿論ふんぞり返って偉そうに、
とかじゃないよ?

何となく今日は一日良い日に違いない!
みたいな根拠のない自信。

今日の収録、ゲストは咲ちゃん。
今日の番組は俺らの番組だし、毎回
納得行くまで撮り直ししたりするから
ゲストのオファーは拘束時間長め。
だから今日キッチリ終われば結構長く
彼女は俺らの楽屋に居てくれる筈。

彼女がゲストの時は皆も張り切るから
結構いつも一発OK。

…でもそれを山田さんに知られると
次から長い時間の拘束が出来なくなる
から、収録後にも反省会とかって理由
付けて、彼女にもそう言って…簡単には
終わらせないんだ。

いつもなら長く掛かった時は当たり前に
…早く終わっても速攻解散するのにさ。

プライベートを大事にする義人や亮太も
彼女が一緒の時は必ず残ってる。
いつもなら何じゃかんじゃ仕事後に予定
入れてる京介も。一磨は彼女のオファー
通った時から俺に良かったな、なんて
言ってくれて、でも知ってる。一磨も
彼女がゲストだと嬉しいんだ。

優しくて可愛い咲ちゃん。
いつもニコニコしてて、この業界には
ありがちな表面だけの愛想笑いじゃなく
俺らと居て、本当に楽しそう。

別の現場の時だってスレ違ったら向こう
から走り寄って来てくれてさ。
他にもそーいう子は沢山 居はするけど
彼女はちょっと違うんだ。

うーん、なんて言うの?
…そう! 中学高校の同級生みたいに、
何の計算も無い感じ?

…俺らは芸能人だからさ、しかももう
結構長い間テレビとかにも出続けてる
からさ、どうしてもそんな『有名人』
みたいな枠で寄って来られてる、って
感じる事も多いんだ。
もちろん、純粋にファンの子とかも多い
んだけど…俺らと繋がって、それで仕事
とか売名とか…しようって子も居て。

…って、嫌な話、しちゃったね。
でもそんなのはこの世界に生きると決心
した時に覚悟の上。だから特別嫌だとか
辛いとは思わない。
…イイ気がしない時はそりゃあるけど。

つまり、彼女からはそんな嫌な気に
させられた事が一度も無いんだ。

小さな事務所の咲ちゃん。
正直、仕事大変そう。
俺らの事務所が女の子もOKなら彼女を
ウチに移籍させたいくらいだけど、
そうはいかないから。

仕事で滅多に愚痴一つこぼさない彼女。

俺らとの時間が少しでも彼女の癒しや
頑張るエナジーチャージになってると
良い。…俺らにとってそうであるように


「わっ、翔くんっ!
おはようございます!」


コンコンコン、と控えめなノックの後
そのノックで彼女だと分かった俺が
急いで出迎えて扉を開ければ、目を
まん丸く見開いた彼女。


「おはよー咲ちゃん!」

「翔、そんな勢いで開けたらビックリ
するだろ。…咲ちゃん大丈夫?」
「犬だなー翔ちゃん。
ノック一つでご主人様の元にビュン!」
「…亮太、言い方。」
「朝から待ってたもんね? 翔。
今日は咲ちゃんがゲストだ!
ってさ。(笑)」


――だから何でそんな事バラすんだよ、
京介っ!


「あっはい、大丈夫です一磨さん。
ありがとうございます。――え、あっ、
そうなんですか? 嬉しい♡
私も今日楽しみにしてたんです。
今日は一日宜しくお願いしますね!」

「今日は俺らの番組で最後?」

「はい。」

「今日は何本目なの? 今映画もあるのに
番組ロケにも出てるんでしょ?」

「えーっと、今日はこの仕事が5本目?
かなぁ…映画は順調だし都内だから
全然大丈夫だよ。今ロケが楽しくて!」

「先週の放送で女芸人達とビショビショ
ドロドロにされてるの見たよ?」

「あっ、見てくれたんだ! アレねぇ…
凄かったのよ? 放水ポンプの勢いって
スゴイの! 全然前に進めなくって!」

「…仕事選んで貰いなよ?」

「ホント、風邪引いたり怪我したら
元も子もないでしょ?」

「あっ、私あんまり熱も出ないのよ?
中学校は皆勤賞だったの。えへへ、
凄いでしょ?」


そう言って、自慢気に細い腕で力瘤を
作って見せる。…全然出てないけど。


「…いや、……まぁ、咲ちゃんが
良いならイイんだけどさぁ…」

「うん?」

「もーいい…。」

「えー何??」


呆れたように口を噤む亮太。

ほら、こんな風にさ。
もうそんな体張った仕事なんてしなくて
良いくらいの人気で、女優としても歌姫
としても認められてる彼女なのに、全然
そんな仕事の愚痴も言わないんだ。


俺も見習いたい。
彼女のその真っ直ぐさ。
何にでも一生懸命な姿勢を。


彼女の事大好きだから



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