Event 1

□BookshelfB
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【 BookshelfB 】
(ブックシェルフ=本棚)


彼女と心を通じ合せ、その翌日には
互いのマネージャーにもその事を知らせ
メンバーにも伝えた、俺らの付き合い。

互いに人気の芸能人で、しかも今は
新しい番組に取り掛かり出した年度末。
仕事は忙しく予定は中々合わせる事が
叶わず、やっと2回目の自宅デートが
出来る事になったのは俺の誕生日から
もう2ヶ月も過ぎようとした時だった。

…勿論、それ迄にも逢えない日は電話で、
またリモート推奨で最近は少なくなった
出演が…例え別番組でも…ラッキーにも
同じ局で被った時なんかは人目を避けて
空き楽屋に忍び込んで、俺らは逢瀬を
繰り返していたのだけれど。

そして、その時には何度も何百回も
交わしたキス。それは…ほんの少しの、
合間の逢瀬でも。何とか時間を捻出して
合わせて、惜しむ様にキスをした。
そのキスだって逢瀬を重ねれば深くなる
一方で。

そんな俺らだから、次の自宅デートでは
素肌を重ねる気は満々だった。…俺は。

どれだけ逢瀬を重ねても
どれだけ唇を重ねても

無垢な咲ちゃん。

彼女の無垢さが煩わしい訳じゃ無い。
それ所か、彼女のその物慣れない様子は
俺を煽り、堪らなくさせ…その挙句、
自らの策に嵌った。

…俺はメンバーに彼女との仲を公表する
時、彼女とはもうカラダの関係もある
風を装った。…わざわざ嘘を語った訳
ではない。

あの告白をされた誕生日、俺は彼女に
誕生日主の特権と主張して彼女を家に
泊めた。…それは俺にとっては一線をも
越えるつもりで。…でも初心な彼女は
俺の誕生日を祝うだけのつもりで。
結果、そんな純心な彼女に無体なんて
する事は出来ず、出来たのは回数に制限
の無いキスのみ。

だけど、そんな事実は意図して隠し、
彼女に気のあるメンバーに対して俺は
「昨日彼女はうちに泊まった。」と
事実だけを告げる事で暗に二人の関係は
既に強固なものになっていると宣言した
のだった。

誤解されるのは承知で。
いや、明確に誤解させるつもりで。
…なのに、ここ暫くの隠せない、この
焦れた様子。

自宅に泊めた発言と彼女の取り乱した
様子で完全に俺らの関係を疑っていない
メンバーは逆に一線越えたからこそ俺が
焦れていると思ってくれているのはギリ
セーフだが、都度…揶揄われる文言が
本当に頂けない。


「義人、最近会えてんの?」

「…それなりに。」

「このご時世だもんなー、共演枠も
減っちゃってさ…こうも会えなくなると
色んな事心配になんない?」

「…ならない。」

「えー、ホントに? だってあれだろ?
JADEとはコラボのライブが暫く延期に
なったとは聞いたけどレコーディングは
続行でネット配信するらしいじゃん。」

――それは聞いてる。彼女本人から。
「らしいな。」

「そんだけぇ?」

「何が言いたいんだ、亮太。」

「んー? 単純に彼女のJADEに対する
あの距離感とか…会えてないとこう、
側に居れない分、余計に不安になんない
のかなーってさ。」


「…別に。彼女からは彼らとの関係に
ついては直接聞いてるから。」

「うわ、強がり。」

「…止めてやれよ、亮太。恋人と
会えなくて辛いのは義人本人だろ。」


ウザイ亮太の絡みに見兼ねて助け舟を
出してくれたのは一磨。このままで話を
流そうとしたらニヤニヤした京介がまた
話を掘り下げてくる。


「辛いのはカラダなんじゃないの?
あの咲ちゃんの抱き心地知った上で
オアズケなんて食らわされちゃったら
啼いちゃってんでしょ。」

――知らなくても哭いてる。
もう、慟哭って言うくらい。


「やめろよ! 京介っそんな下卑た話に
咲ちゃんの名前出すな!」

――それな。…って言うか何でそれで
お前が怒るんだ、翔。俺の彼女だぞ?


「だってあの『たわわな』咲ちゃん
だぜ? 男だったら啼くでしょ。
一度でも抱いて、それ思い出したら。
…翔ちゃんも現実に目を向けな?」

「うるさいな、黙れ京介!」

「あーあ、彼氏よりも彼女を忠実に守る
ガードマン? あ、ガードドッグ??」


――彼女を守るのは俺だから。
それが彼氏の特権だろ。彼女の側で…
って逢えてないんだけど。

…ああ逢いたい…。


「…その、義人? …大丈夫か…?」


一磨に顔を覗き込まれる。


「――何が」

「……早く会えるといいな。」


――一磨の憐れみも


「え、何、マジで会えてないの?
…お前ら大丈夫?」

「義人の求めがシツコ過ぎたとか?」

「うわぁ…あの初心な咲ちゃんに
あまり過度な求めは酷ってもんでしょ。
気持ちは分かるけど…」


――京介と亮太の下卑たツッコミも


「だからやめろって!」


――翔のガードも
…全部。


「…五月蝿い。」

過度も何もまだ何も無いとは死んでも
今更言えないし、口が裂けても絶対に
言わない。…もしも言ったとしたら、
その時のコイツらの歓喜でキラキラした
視線を想像するだけでムカムカする。


…ああ俺、余裕無いな…。
これが『焦れる』って事か…と実感。



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