Event 1

□BookshelfB
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『――義人くん? お疲れ様。』

「うん、お疲れ様。…もう終わった?」

『うん、流石にね、もう12時だもの。
さっき帰り着いて今部屋に入ったトコ。
今からお風呂に入って、明日朝からロケ
行ったら…そしたらお休みだから…』


はにかむように落ちる声のトーン。
ああ…可愛い。…早く逢いたい。


「…うん。――体調はどう?」

『ありがとう、大丈夫だよ。…義人くん
こそ急に寒くなったけど大丈夫?』

「俺は全然。――早く逢いたい。」

『ん"ん"…ッ、ぅ…わ、私も…っ』

「…大丈夫? 何か詰まった?」

『や…、あの…義人くんって…時々急に
その、デレる…って言うか…その、甘い
言葉を吐くから…まだ慣れなくって…』

「そう?」

『え…っ、無自覚なの?』


――掻き口説いてるんだから自覚しての
発言なんだけど。


「逢いたいから。…もう我慢の限界…
早く、明日になって欲しい…」

『ッッ…、そ、そんなの…、ズルい。
私だって…だもん。もう…ッ!』

「はは…っ、ゴメン。――でも、本当に
逢いたくて…仕方ないんだ。」

『もうっ、あんまり言わないで!
…ずっと、ずっと我慢してるのに…っ
――…義人くん…、……っ好き…。』

「っ!! ――…咲ちゃん…」


こんな甘い会話をして、俺らは互いに
互いの想いを感じ合いながら…焦れた
想いを伝え合い、逢える明日を待った。





その日は朝からメンバーにも散々弄られ
揶揄われて…でもこの間と違って今回は
何を言われても何処吹く風。


「え、何…めっちゃ機嫌が良くない?」

「わっかりやす…」

「あ、やっと今日会えるのか…
良かったな、義人。」

「有難う。」

「え、今日咲ちゃんと会うの?
じゃあ義人に伝言頼んでもいい?
『明後日番組の時、借りてた本返すね』
って伝えといて。」

「マジか、翔。心臓タワシなの?」

「…久々の恋人同士の逢瀬に伝言とか
翔じゃなきゃ出来ないよな。」

「しかも何? 翔が本??
…よく咲ちゃんが貸したね?」

「いや、咲ちゃんなら貸してくれる
でしょ?…雑誌とかなら。」

「あー、雑誌ならアリか。」

「どーいう意味だよっ亮太、京介!」

「え、だってあの子、本 大事にしてる
じゃん。…翔ちゃん本読みながら菓子
とか食って汚しちゃうでしょ?」

「……う、」

「じゃあ実際、何借りたワケ?」

「……雑誌。――ッでもっ今回全然っ
読みながら菓子とか食ってないし!
咲ちゃんが本大事にしてるの
知ってるから一切汚して無いっ!」


会話をしていた3人以外も皆が一斉に
ブッと吹き出す。一磨は一応吹き出した
のを誤魔化すように咳払いなんて無駄な
抵抗をして見せてたけど俺らは全員苦笑
してて。

彼女の本好きは皆が知る所で、俺と二人
貸し借りをもう何年も続けてて…彼女は
本好きは勿論、結構な読書家で…しかも
俺と同じく装丁好き。貸し借りする本の
感想を言い合う時、表紙に背表紙、紙の
質から手触り、レイアウトにまで言及
する事は珍しくない。勿論それは今も。

そんな彼女の事は皆も知っていて。
俺も今日はこれからそんな彼女に逢える
充足感から、皆に弄られて悄気てる翔に
機嫌良く言葉を紡ぐ。


「…そう言えば咲ちゃんが翔に
読ませたい本見繕ってた。…まだ内緒
らしいけど文庫本で何冊か今度渡すって
聞いてる。…だから次も大事に扱えよ?」

「っ…、任せろ!」

「伝言はちゃんと伝える。」

「…っありがとう義人。…ごめんな?」

「何が?」

「…あ、えっと、せっかく二人で逢える
って日に…伝言お願いした事…?」

「別に構わない。」

「…咲ちゃんに宜しくな。
やっぱ…お似合いだと思う。義人と…
咲ちゃん。」

「有難う。翔も彼女にとってこれからも
良い友達でいてくれ。」

「そ、それは勿論っ」

「…あーあ、翔ちゃん分かってる?
完全にマウント取られちゃってんじゃん
…今更だけど。」

「確かに今更じゃん?」

「え?…え??」

「京介、亮太っ」

「気にするな、翔。
あいつらのは唯のヤッカミだ。」

「何だよ、二人とも俺が咲ちゃんと
仲良くしてんのが悔しいのか?」


――ピク…


「…バカなの? 翔ちゃん。」

「たまたま今浮かれてて機嫌良いだけで
義人が咲ちゃんに対してだけは
他の男への心がクソ狭いの変わんない
ってのに。(笑)」


――ピクク…ッ


「…本っ当に、心臓に悪いからお前ら
もうヤメろ。」


流石に奴らの遠慮無い軽口を見兼ねて
一磨が話の収拾を言い渡す。

俺も折角の彼女との逢瀬前の高揚感を
これ以上水を差されたくなくてそのまま
口を噤んだ。

京介と亮太のニヤニヤした視線は話が
切り上げられても相変わらずだったが
完全無視して今日の仕事をコツコツと
終わらせて行く。

…あと、3時間。
カウントダウンはもうずっとしてる。
何なら彼女と今夜の約束をした日から。
それが漸く24時間を切り、あと3時間。


*
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