Event 1

□うそつき
2ページ/4ページ


北島に呆れられ、春に怒られ、秋羅には
説教され、夏輝には…溜息をつかれた。
そして見えない所で一番奔走させられた
山田からは冷たい対応。もしかしたら
コレが一番堪えたかも知れない。

そんな傷心の冬馬は一番の被害者の筈の
咲には慰められ、つい甘えてしまい
夏輝の殺人視線に晒される事になった。

「だってエイプリルフールですもんね。
良く考えれば、冬馬さんが何か仕掛けて
きそうってくらい考えたら分かるのに…
私が慌ててしまったから、こんな騒ぎに
なってしまって…すみません、皆さんに
ご心配をお掛けしました…。」

「咲は何も悪くない。
完全に悪いのはこのはた迷惑な男だ。」

「…異論は無し。」

「うん、咲ちゃんは悪くないよ。
…だって、俺の事心配してくれただけ
なんだから。悪いのはコイツ。」

「…まぁ多少貴女にも落ち着きが欲しい
所ですが…今回の原因はウチの水城の
悪ふざけですので、私が危うく前科者に
なる所だった事は不問と致しましょう。
…冬馬も余所の事務所にまで迷惑を
掛けるような遊びはするな。…いいか、
重々気をつけろ。…いいな?」

ビシィッと指を指して颯爽と去って行く
北島マネージャー。
後方にはしょんぼりと項垂れる冬馬。

「…あい…。」

「子供かよ。」

「…でもしょんぼりとしてる冬馬さん
って、母性本能擽られるかも…。」

「っ、えっ? 咲ちゃんマジ?」

ガツッ!

「お前は…反省してないのか…?
心の底から、させてやろうか?今すぐ」

「やだ、なっちゃん…目がマジ…。
ちょ、秋羅…助けて!」

「無理。」

「…一度ガッツリやられておけ。」

「そんな〜春サマ! 助けてー!」

「…無理だな。」

「咲ちゃん〜!」

「咲を頼るな!」

ガッツンガッツン夏輝の蹴りをまともに
尻に食らい、暫くは座るのもキツそうな
冬馬。しゃがみ込んでは大きなその手を
尻に当ててはカバーしている。
夏輝はその様子を冷酷に見下ろしながら
ゴツイ靴の先を向けた。

「うわ、なっちゃんホントごめんって!
もう二度としません!」

「…でもイタズラしない冬馬さんは
冬馬さんじゃ無いような…?」

「…咲ちゃん…。」

分かってくれたとばかりに千切れる位に
振っている、冬馬の見えないはずの
尻尾が見える。

「…咲、甘やかしちゃ駄目。」

より厳しい目で見下ろす夏輝。

「なっちゃぁん…ッ!」

「もう、いいじゃないですか…夏輝さん
あの一瞬の北島さんの判断で、私も無事
だったんだし、冬馬さんも元を正せば
夏輝さんの心配をして、元気になって
貰おうとしただけですし。ね?」

首を傾げ、本気でお願いする様な彼女に
男4人が思う事は同じだろう。


――かっ可愛い…!



だが、皆に同じ想いを抱いて欲しくない
ヤキモチ焼きがここには1名。

「分かった。お前はもういい、冬馬。
…でも覚えとけ? 咲の身を危険に
晒すような遊び…次は無いぞ?」

ギロリと睨んで、彼女の手を引き、元々
メンバーにも申請していた夕方からの
休みを取りに行く夏輝と咲。


「では皆さん…お騒がせしました。」

律儀に挨拶をして、夏輝に肩を抱かれ、
攫われる様にしてスタジオを後にして
出て行く。

その細い後ろ姿を見送って、皆は各々
溜息を吐くのであった。



***


「…まったく、もう…咲ちゃんは
冬馬に甘過ぎるよ。」

「あ、戻ってる…。」

「え?」

「さっきまで咲、って呼び捨てに
してくれてたのになぁって…。」

「!」


…なに、この天然…っ

俺はここが公の…スタジオ前の駐車場
という事も忘れて、彼女を抱き寄せて
しまいそうになる。
全く以て彼女の引力には敵いやしない。


「はあぁ…。」

「夏輝さん?」


グイ、と引っ張って車に強引に乗せる。
ギュ、と抱きしめ髪に顔を埋める。

彼女の香り。
仄かに甘く、花の様な、彼女の香り。

抱きしめて、ホッとする。
ふぅ…と軽く溜息を吐くとそっと軽く
背中に回される咲ちゃんの小さな手。

「ものすごく…ご心配…お掛けして
しまったんですね…?」

「…うん…。」

ぎゅ。

「甘えさせて? 咲に甘えられる
のは…俺だけの特権、だろ?」

「…はい…。」

ぎゅぎゅ。


まだ、スタジオの駐車場だっていうのに
あまりに肝を冷やされたサプライズに
彼女から手が離せなくなる俺。

…だって、良く考えたら本当に…もしも
北島マネージャーのブレーキが一歩でも
遅かったら。もしも……。

もしも、なんて結果論はあり得ないのは
分かってる。そんな事考えたって意味は
無いってのも。

でも彼女を俺から遠ざける、そんな…
もしもの可能性なんてのを考えだしたら


――耐えられない。




例え、嘘だって。



嘘の日だって、そんなの絶対に。




だって…彼女とほんの3週間、忙しくて
逢えなかっただけで禁断症状なんかが
出まくって、メンバーにも不調の原因
気付かれてて。

久々に逢えることに嬉し過ぎて言葉も
詰まって。そんな俺を隠して嘘ついて。
何でも無いよ、なんて言ったのに。


うそつき。



そんな嘘ついたまま、彼女と逢えなく
なるくらいなら、俺は情けなくたって、
彼女にこうして、情けない俺も…全部
曝け出さして抱きしめて貰う方がいい。



嘘を吐いたのは自分の為。
君に心配を掛けない為なんて唯の詭弁。
俺は、君に逢えない禁断症状を自分で
認めたらもう我慢出来なくなりそうで
怖くて嘘を吐いたんだ。



うそつき



それは

君を想う

俺の盾。


*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ