Event 1

□彼女のトモダチ
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いつもの店のいつもの個室。

結局JADE揃いのしかもメンバーだけ
って状況で飲める店なんてそうそうある
訳無くて。

いつもの角の小部屋で座った途端。


「ぅわ、花がねぇ!」


なんて言いだしっぺの冬馬が騒ぎだし。

当たり前だろ。
個室にメンバーだけなんだから!


「男子会って言ったのはお前だろ。」

「だけどさぁ…」

「一体どうしたいんだお前は。」


連行されて来た春と俺の溜息がかぶり。
苦笑した秋羅が煙草を出しながら冬馬を
宥めるようにメニューを差し出し。


「久々にメンバーで酒も入って無礼講、
なんてのもいいじゃねぇか。お前の酒癖
毎回世話見んの俺もいい加減飽きたし」

「なぁんだよ、オトモダチだろ?」

「ま、一応な。」


なんて軽くあしらわれ。
そんなこんなしてる間に、コンコンと
軽いノック。パッと顔を上げた冬馬は
注文伺いに来たのが、馴染みの店長だと
わかると更に


「え〜注文取りまで男!」


と難癖をつける始末。

俺らの事をよく知ってる店長は、流石の
接客業のプロでいつだって正確に空気を
読み、的確なサービスをくれるから何も
不満は無いどころか、この店での一番の
居心地の良さ確保だっつのに。

店長はそんな冬馬に苦笑しながらも一応
にこやかに注文を繰り返し。


「宜しければ、この部屋の担当は
女性スタッフに致しましょうか?」

「余計な気を回さないで。店長」

「宜しいんですか?」

「ホント、いいから。」


苦笑を深くして部屋を後にする店長の
背中を見送り、パタン…と再びメンバー
だけの完全個室になったの確認してから
目を細めて冬馬を見やる。


「コンパみたいなの期待してんなら、
俺は今直ぐ帰るからな!」

「同じく。」


間を置かずに同意する春。
途端に嫌そうに眉を寄せる冬馬。


「ちょ…いくら何でもこのメンバーで
コンパとか、怖すぎだから!」

「確かに。」


今度は秋羅が間を空けずに同意。


「怖いって何が。」

「空を睨むだけの春、一応口元には愛想
笑いは浮かべてるけど隅で酒を飲む夏輝
…その傍でやたらハイテンションの冬馬
そんで、春と夏輝に紹介しろと女達に
集られる俺。って寒気するような図しか
浮かばねぇな。」

「……確かに。」

「な?」


俺の目にも浮かぶその地獄絵図みたいな
状況に再び溜息を吐いた頃。

俺らの好みで作った酒を持った店長が
滑るように入って来て。


「ま、じゃあとりあえずカンパーイ!」


なんてグラスを掲げたその瞬間。
合わせたようなタイミングで電子音の
ファンファーレ。

何? 携帯?

俺の目の前のスマホからなるその音に
持ち主の冬馬に渡そうとして…思わず
目に入る画面に表示のメール差出人。

『from: あゆみちゃん
title: お宝画像 』


「あゆみちゃん?! 」

「やぁね、なっちゃんのえっち!」

「あ、画面見たのはゴメン。勝手に見る
つもりは無かったんだけど…って、んな
事より! そのあゆみちゃんって」

「そ、咲ちゃんのオトモダチの
あゆみちゃ〜ん! さっきメール送った
からその返信♪」

「いつの間に!ってか、
何でお前彼女のメルアドまで!」

「流石に手が早いな。」

「こないだ偶然街中で遇ってさ。
これからの事もあるし、メルアド交換
しちった!」

「なんだよ、これからの事って!
つか何だ! お宝画像って!」


まさかとは思うが、彼女達も今飲んでる
ハズで。そんな状態でのお宝画像なんて
血の気が引く一方なんだけど!

女の子同士でお泊まり会で酒飲んでって
普通に考えたら羽目外してるよな?

いや、でもまさか。
彼女たちは咲ちゃんの親友だし!

なんて俺がアラユル事をぐるぐる考えて
いる間に、冬馬が鼻歌交じりでメールを
開けて。


「うっわ!かっわい〜!!」

なんて叫ぶから。
皆で画面を覗き込んで。

果たしてそこには…

化粧っ気の無い幼い顔を真っ赤に染めて
テーブルに突っ伏してる咲ちゃん。
そのぶかぶかのパジャマの手には、まだ
飲みかけのグラスが握られてて。

そんな無防備な姿が冬馬の携帯に。


思わず咄嗟に奪い取ろうとした手を掠め
何やら返信を打つ冬馬の手からどうにか
彼女を奪い返さんと追い回す。


「ちょ!待っ!なっちゃん!」


――くそっ、こいつは図体デカイ癖に
チョロチョロと…っ!


狭い個室をソファを飛び越えドタバタと
追いかけ回す。その間もメール着信の
ファンファーレ。


「冬馬!見せろッつかお前は見るな!」

「俺の携帯だっつの!」


30近いおっさん2人で追っかけっこで
携帯の奪い合いなんて目も当てられない
って思うのに、彼女のあの無防備な姿を
これ以上誰の目にも晒したく無くて。

頑張った。


ドガッ!

「っで(痛)えぇぇッ!」


どうにか冬馬の背中を蹴り倒して。
切れた息も荒く奪い取って。


「…指紋認証、どの指だ。」

「お父さん指…。」


ガシ、と冬馬の太い指をボタンに当てて
ロックを外し。申し訳無いけど勝手に
あゆみちゃんに返信をして、彼女からの
画像付きの受信メールだけを削除。
念のためカメラロール(画像保存場所)も
チェックして、保存されて無いかだけ
確認して。


――やっぱあった!…コイツっ!


あの逃げ回ってる間に、どうやったら
こんな操作が出来るんだかと思わなくも
無いけど、兎に角両方とも削除して。


「画像は消したからな?」

「ひでぇや〜なっちゃん。」

「人の彼女の画像見て何すんだよ。」


ソファにドカッと腰掛けて、走り回って
暴れて疲れた体を休め、カラカラの喉に
ジンを流し込む。


呆れたように溜息をつく春と
笑いながらグラスを合わせて来る秋羅。


「ま、お疲れ。奪還オメデトウ。」


――五月蠅ぇよ。
まったく。


*
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