Event 1

□キラキラキラ
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「ボディガードか。」

「はい…。」

「何故女装を?」

「あの、ずっと一緒に居る事になるので
本来は女性の方が来られるはずだったん
ですが、ストーカーが男性で複数らしく
念のため男性の澤田さんで、あとはその
周りの目とかそういうの、とか色々…」

「え、ずっとって楽屋も?! 」

「はい。」

「こんなおっさんと?!着替えとかは!」

「冬馬っ!」

「いや、あの、ちゃんと澤田さんはそう
いう時は背中を向けて下さってますし、
あの、家を出てから、家に戻るまでは
澤田さんがずっと…家の外ではその他の
方がいらっしゃるとの事で…ただ、私も
外の方にはお会いしてないんですが…」

「――で、当の澤田さんが何も喋らねぇ
ってのは守秘義務ってヤツ?」

「あ…たぶん。その、山田さんがこの後
来た時に説明すると言ってたので…」

「ねぇ、澤田さん、これだけは確認を
しときたいんだけど…それほどまでに
彼女は緊迫した状態って事?」

「…私から申し上げる事は
何もございません。」


ガタン。

にべも無い澤田さんの一言に場が凍った
かと思ったその矢先。神堂さんが立ち
上がり、私を見下ろした。


「咲、仕事だ。ミキサー室へ。」

「は、はいっ!」

「…。」


カタリ。

澤田さんも私に続けて立ち上がる。


「部外者は遠慮して貰おう。」

「職務ですので。」

「遠慮して貰う。」

「…。」

「澤田さん、お願いします。」

「…分かりました。」


「まーまーこのJADE専用のスタジオの
2人でいっぱいのミキサー室で変な人も
何もないっしょ。何より春が付いてるし
俺らだって居るんだから。澤田さんは
安心して好きにしてたら?」

「ミキサー室の前で控えます。」

「…ま、どうせ防音だけどね。」




***



「そこに座るといい。」

「はい。」


神堂さんに促され、彼の横に座る。
神堂さんの澄んだ瞳が私を見つめる。


「…あ、の…?」

「被害は?」

「え?」

「ストーカーの…。」

「あ…あの、一時期は実家までお手紙を
直接投函されに来たり…怖い事も続いた
のですが澤田さんが来て下さってからは
もう、何も無くなってて…」


カタン…ッ


――え…?


気が付けば神堂さんの胸に抱きしめられ
ていた。馨(かぐわ)しいコロンの香りが
私の鼻腔を擽る。


――いい香り…。


「咲…。」


うっとりと神堂さんのコロンの香りに
酔うようにぼんやりしていると、耳元で
あの深い声。


――…はっ! わ、私、今…っ!


「し、神堂さん…っ、私…っ?! 」

「シー…そのまま…。」

「あ、あの…」


そっと顎を掬われ、そっと優しく唇を
合わせられる。啄ばむようにそっと。


「ん……ぅん…」

「咲…。」


――一体何が起こっているの…?


「咲、勝手な記事が書かれ、君に
逢えなくなってた間…胸に重石をされた
ように苦しかった…。
そして今、他の男に守られる君を見て、
生まれて初めての嫉妬と言う感情を
覚えた…。俺にそんな感情を覚えさせる
のは後にも先にも君だけだ…。」

「逢えなかった間…苦しさ…嫉妬…?」

「そう。今日と言う日に漸く出逢える…
織女と牽牛のように、君に逢いたく…
また、二度と君と離れずに居たいと思う
こんな俺を…君は歌のように受け入れて
くれるだろうか…。」


ちゅ

再び重ねられる唇。
柔らかく、啄ばんで。

私の唇を食み、吸う…。

ドキドキが止まらない。
神堂さんが私に初めての感情を覚えさせ
られたのだと言うなら私は彼に生まれて
初めて今教えられ…恋という名の河を
渡らせられているのかもしれない。

彼に手を引かれて。
心を惹かれて。


魔法にかけられたように、
恋の河を渡って…。





天の恋人たちが出会う頃、

私達も2人で恋の河を

渡り切るのか
溺れるのか





でもきっと、彼と2人なら大丈夫。








end.

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