Event 1

□Herzlichen Glückwunsch zum Geburtstag!
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「今日…お仕事終わるの何時ですか?」

『…どうした?』

「あ、あの…お家、行ってても…その…
帰りを待っててもいいですか…?」

『勿論。8時には帰る。』

「…良かった。待ってますね。」

『…いつでも来て待っていて欲しい。
君が家に居てくれると言うだけで確実に
仕事が捗る。』

「…! …もう、神堂さんったら…。」


真っ赤になった顔は電話で見える筈も
ないのに、顔を隠してそう言う。

彼にはその様子も伝わっているようで
受話器の受信口から彼の吐息の笑いが
耳に届く。

そのまるで耳元に息を吹きかけられた
ような錯覚に更に顔に赤みが差す。


『可愛い。』


そんな囁きを耳に受けますます赤くなる
私がまるで見えてるみたいにクスクスと
笑う神堂さん。

彼と居ると私の顔はいつもタコみたいに
真っ赤に茹りっぱなしだ。もう付き合い
だして1年にもなろうというのにこんな
物慣れ無い私でいいのだろうか。

最近はそう思えて仕方がない。


「ま、待ってますね?」


それだけ言って通話を切る。
彼のクスクスと笑う声が耳に木霊してる
気がした。


今日は彼の誕生日。
昨日まで私は地方ロケだったから今日と
明日はお休みになってて。

彼には明日のお休みは伝えてて、今日は
夜に行くから夜からの予定は私に空けて
欲しいとお願いしていた。

彼も近々あるイベントライブで忙しい
日々を過ごしていたし、彼は元々自分の
誕生日とかそういうのには興味が無い
みたいで…私が今日空けて欲しいって
言うときょとんと目を瞠(みは)った。

だから、彼には内緒のサプライズをする
事にして、今日のお休みは内緒にして
その下準備に当てて。

本当は…丸々2日彼と過ごせるなんて
そうそう無い事だから一緒に過ごしたい
なんて気もしたのだけど、ライブ前の
彼にそれを望むのも酷な気がして。
丁度良いからサプライズの準備にしよう
って決めたのだった。



お付き合い2年目の今年の目標はほんの
少しでも距離を近づける事。


…それから『呼び捨て』。


どうしても10も年が離れてて大先輩の
彼を呼び捨てに出来なくて1年が経って
しまった。彼には何度も『春』と呼んで
欲しいと言われてる。

…それはそうだろう、と自分でも思う。
他のメンバーさんには『夏輝さん』始め
『秋羅さん』『冬馬さん』とお名前なの
だから。
お付き合いをしている彼だけが名字って
言うのは確かに…。

でもだからって安易に『春さん』って
呼ぶのも何だか違う気がするしイキナリ
一足飛びに『春』と呼ぶ…勇気が無い。

ううん、勇気、ってのとも違うかな?

呼びたいし、呼ぶつもりで練習だって
してるんだけど、なかなか…。

だから、2年目突入の記念でもあり、
大好きな彼の誕生日に決めたい…!


『春』って。
『春、お誕生日おめでとう。』って。

そして『これからも宜しくね。』って。
2年後3年後…ずっと先まで。

だから、今日は彼の家で彼の好きな物を
沢山作って彼を待ち、お祝いするのだ。

彼が喜んでくれる事思いつく限り全部で


そう思って張り切って家で下拵えした
食材を持って彼の家へ行ったのだった。



***



沢山のお料理と手作りケーキ。

その仕上げを手掛けて…うん、綺麗に
出来た!って満足してケーキは冷蔵庫へ
そっと移すと時間はもう直ぐ8時。

彼らしく時間ぴったりに鍵を回す音。


――?


鍵を回す音がしたのに彼が入って来ない
事に不安になって玄関に向かう。

突然のインターフォンのチャイム。


ピンポ―――ン


え? え? え?
彼じゃないの?それとも鍵が開かない?

慌てて駆け戻って壁のインターフォンを
覗くとやはり、彼。

玄関の前で立ち竦んでいる。


「ど、どうしたの?」

『開けて欲しい。』

「う、うんっ、今!」


なるだけ急いで玄関を開ける。


「お帰りなさいっ!」


開けると同時に見えた彼の顔にホッとし
思わず笑顔が零れ出る。

彼もとても優しい顔で微笑んで、そっと
頬を手で撫でてくれる。そして…まるで
新婚さんのように唇にキス。


「…ただいま。君にこうして迎え入れて
貰いたかったんだ。すまない。」


不意のキスとその甘い言葉に、またもや
赤くなりつつも嬉しくて。
私は彼にぎゅっと抱き付いてキス。


「…お帰りなさい。今日も1日お仕事
お疲れ様でした。ご飯出来てますよ?」

「!…まるで夫婦のようだな…。」

「わ…私も同じ事思ってました。」

「…早く、そうなりたい。」

「!…私も、です…。」

「 !! 」


ぎゅ…


「…このままベッドでもいい?」

「っ!…ダ、ダメ…っ!」

「え…?」

「きょ今日は、その…頑張ってお料理を
したので…。た、食べてから…。」

「食べたら…いい…?」


――きゃ―――…っ

もう、これ以上真っ赤にはなれないって
言うくらいに真っ赤になって頷く私。

そんな私を彼は膝裏を掬い上げ、お姫様
抱っこでリビングへと運んだ。

ソファへゆっくりと下ろされ、そっと…
優しいキス。思わず酔ってしまいそうに
なるキスに慌てて身を起こし、彼の腕を
擦り抜けて。


「ちょ、ちょっとだけ待ってて下さい!
すぐ運びますから!」


アワアワと真っ赤なままキッチンへ入り
もう出来上がっていた食事を運ぶ。
彼の好きな物ばかり。
…気付いてくれるかな?


「はい、どうぞ!」

「…これは…凄いな。」

「あ、後でデザートもあるんですよ?」

「デザート?」


――本当に忘れてる? 自分の誕生日。

それは寂しい。今回はサプライズだから
良いとは言え、やっぱり私にとっては
大事な日だから。とても大切な日だから

…とても大切な…大事なあなたが
生まれた日。

だから、お祝いさせて?

私の精一杯で。


私はそう思うと、もう居ても立っても
居られなくて。食事と一緒に冷蔵庫に
仕舞っていたケーキを運んだ。


「ハッピーバースデー春!…今日は…
お誕生日でしょう?…春の。」


そう言うのがいっぱいいっぱい。
恥ずかしくてギュッと閉じてた目を開け
彼を見つめる。

目の前には何処までも優しく澄んだ
春の瞳。もう、そしたら何だか胸の中も
一杯になってしまって…。

私は詰まりながらも一生懸命、
春の名を呼んだ。


「春…。春って呼びたくて…は、春も
名前、呼んで欲しいって…でもなかなか
呼べなくてごめんなさい…っ、わ、私、
でも呼びたくて…っ」

「呼んでくれていた。」

「……え…?」

「…咲。君はいつもベッドの中で
意識を飛ばしかけた時、…また、一緒に
眠っている時に、俺を…春、と呼んで
くれていた。」

「え…?」


テーブルの横に立ったままの私に近づき
ゆっくりと…まるで宝物を大事に胸に
仕舞うように抱き締めた。


「君の、気持ちが溢れているようで
嬉しかった。…そして、勿論今も。
もう一度、呼んで?」

「…はる…。春…お誕生日おめでとう。
これからも、ずっと一緒に居て…?」

「ああ。約束しよう。」

「生まれて来てくれてありがとう。
…私を欲してくれてありがとう…。」

「咲…。」

「春、大好き。」


そして、私達の距離はゼロになり
この先もずっと、と誓い合ったのだ。



おめでとう

大好きなあなた

生まれて来てくれてありがとう

今日は特別な日

あなたの誕生日

2人の記念日

最高の







Happy Birthday HARU!







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