Event 1

□聖夜の願い
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「……。」

「あ、あのね! ちょっと、その、
誕生日にパンケーキって…とも思ったん
だけど、多分亮太くん今日は彼方此方で
ケーキ食べちゃってるだろうし!
そ、それならホラ、あんまりお腹に
重くないパンケーキの方が…とか、
その…考えたんだけど…でも、よく
考えたら、パンケーキがどうとかより、
そもそも甘いものじゃない方が良かった
よ、ね…?」


途端にしゅん…とする咲ちゃん。


俺は色んな感情が胸に渦巻いて、何も
言えなくて、唯無言にそのパンケーキを
頬張った。
彼女が気を利かせて付けてくれてた
小さなフォークで一口サイズに切った
一片を口に入れる。

適度に甘くてふわふわで。
昔食べた母のホットケーキとはもちろん
材料も何もかも違ってるんだろうし、
味だって、お菓子作りはクッキーか
ホットケーキ位しか作れなかった母より
趣味だと公言している咲ちゃんの方が
全然美味い。以前貰ったクッキーも、
それからガトーショコラもお店のじゃ
ないの?ってくらいの美味しさで。

このパンケーキだって、中のふわふわと
外の少し焦げたカリカリが絶妙だし、
香りもバニラビーンズでも使ってるのか
全然こっちのが上。


それなのに。

どこか懐かしいその味は。



「…!! りょ、亮太くん…?! 」


思わず溢れた涙。
でも、手にはケーキの箱とフォークを
持ってて。慌てて拭おうとするけど
上手くいかなくて。

そしたら、そっと拭われるガーゼの
優しい肌触り。その柔らかさが彼女の
優しさそのもので。

また、そんなガーゼの感触でさえ、
何処か昔の記憶とリンクして。



静かな俺の涙が止まるまで、彼女は
何も訊かず、唯優しく涙を拭い続けた。


「ごめん。こんな事になっちゃって…
とても美味しい。こんな美味しいケーキ
食べたこと無いってくらい。」

「ううん。…ありがとう。そんなに
喜んで貰えるなら、また作るね?」


それは彼女なりの優しさで。
パンケーキに何かしら俺が思い入れが
あって泣いたってのは察せられたハズ
なのに、それには触れないでいてくれ
ている。


「…また、作って?
来年も再来年も…俺専用で。」

「うん? パンケーキでいいの?」

「うん。咲ちゃんのパンケーキが
いい。…でも、意味解ってる?
クリスマスイブだよ?」

「うふふ、予約だね!1年も先の予約
だなんて、人気店みたい。それに…
確かに今日はクリスマスイブだけど、
それが亮太くんの誕生日でしょう?
…良かったね、世界中の多くの人が
幸せな日に生まれたんだね。」

「…え?」

「キリスト教徒が多い国だと内戦とか
戦争中でもクリスマスだからって、
その日は休戦日にする事もあるんだって
ニュースでやってたの見たの。
…そんな幸せな日が誕生日なんだよ。
他にそんな日ってないでしょ?
幸せの日だよ。」

「…そっか…。」

「うん。だから、
誕生日おめでとう、亮太くん。」

「…ありがとう。…ねぇ、咲ちゃん?」

「うん?」

「祝ってくれる気なら、俺 ワガママな
お願い事してもいい?」

「いいよ? 私に出来ることなら。
お誕生日は王様だもの。」

「さっき来年のパンケーキ予約したけど
変更して咲ちゃん毎予約させて。」

「えっ? 私ごと?」

「うん。咲ちゃん毎。
来年も再来年も俺の為に12月24日は
空けといて?」

「え…あ…、お仕事は入っちゃうかも
しれないけど、」

「それはお互い様。でもそうじゃなくて
プライベートでって事。」

「え、でもそれって…」

「毎年、俺の為にパンケーキ焼いてよ。
それで次の日はクリスマスを一緒に
祝おう。ケーキと互いへのプレゼント
準備してさ。世界平和と皆の幸せも
願いながら。」

「そ、壮大だね…。」

「うん。幸せのお裾分け。」

「え?」

「俺は咲ちゃんが居てくれたら
幸せになれるから。」

「…ホント?」

「うん。1年で1番大嫌いだった日が、
こんな大切で幸せな日になるなんてね。
冗談じゃなくって。今、咲ちゃんが
断ったら、俺の誕生日もクリスマスも
一世一代の告白で振られた人生最悪の日
になっちゃうんだからね?責任重大。」

「えええ?! 」

「ね、お願い、きいてくれる?」

「…ふふっ…亮太くんらしい。
責任重大だね? …うん、亮太くんの
お願い、私が叶えてあげる。」



「……。」



「亮太くん?」

「…本当に?」

「うん。」

「来年も再来年も…ずっと、だよ?」

「うん。来年も再来年もずっと、
一緒にお祝いさせてね。」





細(ささ)やかじゃないお願いの後は

誓いのキス・キス・キス。




聖夜の願いは厳(おごそ)かに

天使が叶えてくれたんだ。





先の未来の永遠(とわ)の向こう

そんな先までずっと一緒に。










Happy Birhay RYOTA xxx
2014.12.24





end.

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