Event 1

□冬の友
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〜海外中継出発前〜


TRRR…RRR…

『はい? 咲ちゃん?
待ってたわよー電話。』

「モモちゃん、遅くなってゴメンね?
今、マンションに帰り着いたの。」

『徹平ちゃんから電話は遅くになるって
連絡あったから大丈夫よ。』

「うん。今日山田さんにモモちゃんも
今回一緒に行けるって聞いて!…あ、
他のお仕事とかち合うかもって言ってた
のに、大丈夫だったの?」

『大丈夫よー。ちゃんとラビットからの
正式オファー貰えたから。お仕事♡
アタシが咲ちゃんより他の仕事を
優先なんてする筈無いでしょ?』

「もぅ、モモちゃんったら。
…でもね、あの…んと…。」

『なぁに?』

「あ、あの、こんなこと言うのって…
きっとマナー違反だと思うんだけど…」

『あら、なぁに?』

「うちの事務所より、モモちゃんなら
きっと大きなお仕事のオファーあった
筈なのに、それでも一緒に来てくれて
ありがとう。凄く嬉しい。」

『…バカね。言ってるじゃない。
どんなお仕事よりもいつだってアタシが
優先するのは咲ちゃんよ。』

「えへへ。」

『しかも今回大掛かりなドッキリもする
中継レポなんでしょ? しかも連続。
お着物でドタバタする筈だからアタシが
居なきゃ大変よ? 髪も化粧も着付けも
アタシなら1人でイケるけど他の子じゃ
そうはいかないもの。って言うか、
そんな番組ってお正月から大変ねぇ。』

「ううん。着付けやヘアメイクって理由
だけじゃなくて、私がモモちゃんと一緒
だと心強いから嬉しい。」

『…んまぁ! なんて嬉しい事を言って
くれちゃうのかしら。この子ったら。
んもう! 力一杯綺麗にしちゃう!』

「うふふ、よろしくね? モモちゃん。
…あ、そうだ、持って行く物のチェック
お願いしたいんだけど、いい?
スキンケアとか、向こうで買えない物
とか、聞いとかなきゃ。」

『アタシが一緒だから咲ちゃんが
自分で持ってかなきゃいけない物なんて
殆ど無いんだけど、その辺は今から示し
合いましょうか。メモの準備はいい?』

「うん。」

『じゃあ、先ずはね…』


モモちゃんと荷物の照らし合わせをして
片っ端から詰めていく。
やっぱりモモちゃんは頼りになる。
私だけの発想じゃこんな物まで浮かばな
かったもの。しかも余計な物や被る物は
置いて行けて助かるし。ドライヤーも
確かにモモちゃんの物の方が風も強いし
私がわざわざ持って行かなくてもいい
って言うのは有難い。嵩張る物だし。
それに、その…ナプキン事情とかって
言うのもモモちゃんだから先に気付いて
くれて。ピルを飲んでるから必要ないと
ばかり思っていたけど、時差や疲れから
もしも来ちゃった場合、海外のナプキン
だと気触(かぶ)れる事も多いから何枚か
持ってった方がイイとか。そういうの、
もし山田さんから言われたら、やっぱり
ちょっと恥ずかしい。お仕事に関する事
とは言え、やっぱり。
それに、いくら山田さんが有能な人でも
そこまでは女の子の事情なんて知らない
と思うし。


「…うん。ありがと、モモちゃん。」

『いいえー。荷物、少しは軽くなった?
女の子は唯でさえ荷物が多くなりがち
だから、意識して少なくしとかなきゃ』

「うん、勉強になりました。」

『まぁ。その辺は経験値だわね。』

「そうだね。もっと覚えてかなきゃ」

『そうねぇ。咲ちゃんもこれから
どんどん海外進出してくんだものね。』

「えええ?! そっそんな! 私は海外
なんてまだまだだよ!」

『そうなの? 人気・実力共に若手の
中じゃトップクラスじゃないのー。
本当に腰が低いんだから。ま、そこが
咲ちゃんの美点でもあるわね。』

「そんな! 全然まだまだだよ!
あはは、でも褒めてくれてありがとう。
ふふ、モモちゃんも親バカだよねぇ。
山田さんと同じ事言ってるもの。
言い回しも同じだよ?」

『あら。本気なのに。』

「んもう! そんなことばっかり。」

『あ、そう言えば徹平ちゃんに部屋割り
訊いてみてくれた?』

「あ、うん。モモちゃんが行けるなら
肌ケアとかもあるし、何よりも海外だと
色々怖いからツインでってお願いしたん
だけど、もうシングルで取ってあるから
ダメなんだって。」

『…そうなの? オファー受ける前の話
だと考えとくって言ってたのに?』

「うん。…如何してもって言うなら、
3日目からだって。」

『3日目?…なんで初日2日目はそんな
頑なにダメなのかしら。』

「さぁ…? ホテルのお部屋の予約の
状況とか? ほら年越しで満杯とか。」

『だったら、3日目までだって一杯の筈
でしょ?…あ、そっか…そういう事。』

「モモちゃん…?」

『んーん? ねぇ咲ちゃん。
パジャマは持った?』

「え? ううん。南国だし暑そうだから
キャミと短パンだけ。」

『あら! ダメよ? 南国だからこそ夜は
クーラーだってガンガンだったりするん
だから。首・肩・お腹・足冷やしたら
体調崩すわよ?…特に行ってスグなんて
体調崩し易いんだから、しっかり着て
寝ないと後の行程めちゃめちゃよ?』

「あ、そっか…。あーじゃあパジャマで
荷物かなり多くなっちゃう。お洗濯とか
出来ないよね? きっと。」

『そうねぇ…。まぁ取り敢えず2枚も
あれば良いんじゃない?』

「えっ、でも行程は撮影予備日も全部
合わせて5日もあるよ?」

『大丈夫♡ あ、そのラフな部屋着は
ケアする時に要るから持ってってね?』

「う、うん?」

『じゃあ、後は大丈夫?
忘れ物は無ぁい?』

「…うん、たぶん大丈夫。
ありがとう! モモちゃん。」

『どういたしまして。
じゃあ当日空港でね?』

「うん! 宜しくお願いします。」

『任せといて! アタシが咲ちゃんを
誰よりも綺麗に仕上げてあげるから!』

「うふふ、楽しみにしてるね。」


そんな長電話をして、電話を切った。
やっぱりモモちゃんとの話は楽しくて。

私は鼻歌を歌いながら、今言われた
ばかりの首元まであるパジャマを畳み
直してトランクへと入れたのだった。





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