Event 1

□Bookshelf
2ページ/7ページ


彼女にはまだ告白はしていない。

…と言うのも、今の関係が心地良過ぎて
一歩を踏み出せない、と言うのが正しい
んだと思う。


「なぁ、義人。お前ホントに彼女とは
何でもない訳?こないだ言ってたろ?」


彼女が楽屋を去った後、亮太が俺の顔を
覗き込み、誤魔化しは効かないぞ?と
いう目で訊いてくる。


「ああ。付き合っている、という
事実は無い。」

「ふーん、じゃあ俺がコナ掛けたって
良いよな?」


その会話を聞いてそう口を挟んだのは
京介。…実はこの来る者拒まず去る者
追わずで散々と浮名を流してきた京介が
彼女の事は自分から追い掛け回すほど、
殊の外お気に入りなのは周知の事実で。

俺はそれも踏まえた上で即答。


「それは困る。」

「は? なんだよ、それ。」

「さっきの翔と同じリアクションだな。
…確かに付き合ってはいないが、俺が
彼女に惹かれているのは事実だからだ」

「は? なんっだそりゃ!」

「うわ、横暴っ。
…義人って思ってたよりも俺サマ?」

「どう見たってそうだろ。」


会話の主の京介、翔、亮太から批難が
飛ぶ。一磨も俺の言い様に驚いたのか
珍しくこの手の話題を止めに来ない。


「なんとでも言え。」

「…じゃあどーすんのさ。お前、
咲ちゃんに告白すんの?」

「……。」

「しもしないのに、俺らが彼女に
アプローチすんのを止めんの、
可笑しくない?」

「……。」

「って事で、俺動くから。」

「ハイハーイ! 俺も。」

「俺だって。」


こんな状況になって漸く一磨。


「おい、いい加減にしろよ。
…って言うか、義人、お前と咲ちゃん
本当に付き合ってないのか?
…いや、俺てっきり…。」

「な? どー見てもそんな雰囲気じゃん
だけど、違うってんなら俺らにもまだ
チャンスあるって事だろ?」


チャンスなんかある訳無い。
そんなの許す訳無い。

だけど、いくら、彼女との心の距離が
近く感じていたって、俺らがまだ同列
なのは確かで。

…だって、数日前のバレンタインデー。
彼女は律儀に俺らの楽屋に朝イチで
挨拶にやってきた。手作りのチョコを
携(たずさ)えて。

あの日、俺は一瞬期待したんだ。


彼女の中にも…俺に対して何か特別な
ものが在れば、きっと皆とは何か違う
チョコが入っているかも、と。

…だけど、違った。

箱も中身も皆同じで。そりゃそうだ。
ラッピングされた一つ一つ、特に目印も
何もされて無くて、配給のように俺らは
受け取ったんだから。

それでも彼女が手作りをしたのは俺らと
山田さんとモモちゃんとJADEと弟
だけだったと聞く。
(亮太が巧みに聞き出した。)

つまりは俺らは周りの他の連中よりは
断然彼女に近いけど、それはあくまで
俺らWave全員が同列。
今、彼女からの距離は同じ平行線上。

あの時、メンバーは皆が皆して俺の
チョコを覗き見た。俺が思うように、
俺のだけに何か特別な仕掛けがされて
いないか。

俺は顔には出さ無かったが、正直かなり
気落ちし、メンバー…特に亮太はそんな
俺に畳み掛けた。

『まだ彼女を捕まえてなかったのか。
さっすが難攻不落の彼女らしいや。』

その時は出番も直ぐに回ってきた為、
それ以上この話に触れる事は無かったが
今、こうやって改めて話題に上がるって
事は皆が皆確認したくてウズウズして
いたんだろう。





*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ