Event 1

□Candy KISS
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〈 冬馬さんと Candy KISS 〉


JADEスタジオへの坂を走る。
今日は神堂さんのレッスンの日。

運良く? ホワイトデーに当たったから
お仕事の延長でも冬馬さんに逢えるのが
嬉しくて。

あ、でもJADEの皆さんがいらっしゃる
かどうかは分からないんだけど。

レッスンの多くは仕事が多岐に亘って
しまう私の都合で、それに神堂さんが
合わせて下さってて。場合によっては
もう皆さんが帰った後っていう事も多々
ある。音合わせの無い日とかもあるし。

でも、今日は…。
実は昨日、私は冬馬さんにメールで確認
しようと思ったんだけど、何だかそれも
催促してるみたいで出来なくて。

冬馬さんに、バレンタインにたった1人
だけの手作りチョコを渡した。
冬馬さんはすっごく喜んでくれて、私は
その喜ぶ様子に満足してしまって肝心の
告白がちゃんと出来て無くて。

家に帰って思い至った。

ちゃんと言葉にしなくても伝わったかな
…唯の義理チョコだと思われて無いかな

でも冬馬さんは言った。

『ホワイトデー期待しといて』って。

…だから、期待してるの私。
でも何の約束もして無くて。
あれから何度もスタジオで、テレビ局で
楽屋で会ったけど、ホワイトデーの事は
何にも言って無くて。

でもあんなに喜んでくれてたし…、前に
『今年からの手作りは俺にだけね?』
って言ってくれたから、嬉しくて本当に
そうしたんだけど…。

もしかして、冬馬さん流の女の子への
軽い挨拶だったとしたら…。

なんて事も最近はぐるぐるしちゃって。

たぶん、確実に。
私が冬馬さんが好き!ていうのはもう
皆さんにバレバレで。

一生懸命普通にしてるつもりなのに、
さり気無く冬馬さんの横に座らされたり
とか、冬馬さんと話してると皆さんの
視線がやたら温かかったりとか、時折
秋羅さんにからかわれたりもあって。

でもいつも夏輝さんが庇ってくれて。
神堂さんは茶化したりはしないんだけど
レッスンの合間に冬馬さんの話をぽつり
ぽつりとしてくれる。

優しい皆さん。
皆さんから聞く冬馬さんの様子では
私達は両想い。

私のレッスンのある日は冬馬さんが
朝から張り切って大変だって。
テレビ局でも着替えもメイクもしない
内に私を探しに出て行っちゃうって。


本当に?


皆さんを疑う訳じゃないけど、
不安になる。

女の人にモテモテの冬馬さん。
以前何度か偶然会った時、街で連れてる
冬馬さんと一緒の女性は皆さん綺麗で。
お子様な私とは全然違って。

そんな綺麗な女性をいっぱい知ってる
冬馬さんが私に?

そう思うとキリが無くて。


こんな事ならしっかりとチョコを渡した
バレンタインの日に言葉で告白をして
おけばよかった。

そしたら、こんな宙ぶらりんな事には
なんなかったかも…。


そんな事まで思って。


――ダメダメダメ!

今からレッスン。
こんなプライベート事で暗い顔してちゃ
折角時間を空けて下さった神堂さんにも
失礼だし、レッスンも身に入んない。

…しっかりしなくちゃ。

そう気分を立て直す為に頬を叩いて。
JADEスタジオの駐車場を横切って
建物の階段を上がっていく。


コツ・コツ・コツ・コツ…

少し背伸びして履いたヒールの高い靴が
いつもより硬い音を立てる。
そうして登り切った踊り場で。


「来た来た〜っ!」


バーン!と扉を開けて飛び出して来た
冬馬さん。


――え…っ?!


「アッタリぃー! んな?
咲ちゃんだったろ? おっはよ❤︎」

「…いつもより硬い音だし足音も違った
のに良く分かったな。」

「犬か。」

「ああ、なるほど。咲ちゃん今日は
ヒールなんだね。だから足音もゆっくり
だったんだ。」


「えっ? え?…え…」


踊り場で冬馬さんにいつものハグをされ
ながら、スタジオの扉から揃って顔を
出されてる皆さんを見回す。


「…冬馬がさ、咲ちゃんが来るのを
今か今かと待ち侘びて、スタジオの防音
扉まで薄く開いててさ。防音の意味無い
っていうのにね?」

「そ。んで俺らも今の上がって来る足音
聞いてたんだけど、冬馬が来た!って
ウッキウキで飛び出そうとすっから、
いや待ていつもの咲ちゃんの足音と
違うから違うんじゃねぇの?って言って
たんだよ。今回は冬馬の耳に完敗だな」

「…ご主人様の足音だからな。」

「違いねぇ。」

「お前ら!…ちぇっ、好き勝手言えよ!
ああ、そうさ! 俺の俺だけのご主人様
だからな。今日からついに、完全に!」


「ええ…っ??? 」



…もう、何が何やら。

皆さんも何か言いたげにニヤニヤ。
私だけが良く分かって無い感じで。




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