Event 1

□甘党
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直ぐ近くまで来ていると連絡が来て。
私は手荷物と傘を持ち、家の前に待機。
初めて私の家まで来るから住所を送って
…相馬さんはそれだけで場所を把握した
らしかったけど、普通の住宅街だから、
一応判るように外に出て。

たまにぽつぽつ落ちてくる雨粒除けと
ついでのパパラッチ除けに傘を挿し、
相馬さんを待った。

胸のドキドキはもうピーク!って感じで
ザワザワして落ち着かない。
ちょっと高めのヒールを見下ろしながら
ふわんとワンピースの裾を直したりして

すると横付けされる車。
一瞬ギクッとするものの、中を覗けば
やっぱり相馬さんで。

ドキドキとホッとが混ざった変な溜息が
出た。


「…ごめん、待たせた?」

「あ、いえ! 住宅街なので解りにくい
かも…と思って、今出ただけなんです」


何だかあからさまに待ち遠しかったのを
見透かされた気がして恥ずかしい。


「乗って。」


そう言って中から助手席を促され、
そのお言葉に甘えて乗り込む。


「あ、あの…助手席、私が乗っても
いいんでしょうか…?」

「?…ああ、パパラッチ対策って事?」


一瞬、本当に判らないって顔されて、
自分が意識し過ぎてるのが恥ずかしくて
俯いて。


「あ、いえっ、その、か、彼女さんに
悪いな…って思って…。」

「彼女? 居ないよ。」


思わずパッと顔を上げて。
目の前には苦笑した相馬さん。


「…居たら誘わない。基本的に俺は
恋人が居たらその人だけだから。」


ドクン!

心臓が跳ねた。


――それはどういう意味なのだろう。

今は彼女が居ないから気楽に誘っただけ
なのか…。それとも…私だから、とか。

都合のいい事を考えそうになって、
思わず頭を振る。


「咲ちゃん?」

「いっいえ、何でも!」


静かに車が走り出す。
車内コロンだろうか、少し甘い香り。

それから、あまり大きくない音量での
さり気無いジャズ。

雨のドライブに余りにピッタリで、
そのチョイスすら大人。


「室温とか音楽とか大丈夫?」

「はい…っ」

「…もしかして緊張してる?」

「ぅ…は、はい…。」


サラリと訊かれた言葉に頭も通さずに
してしまった返事。慌てて両手で口を
押さえたけど、もう言ってしまった後。

相馬さんにどう取られたのか不安で、
でもどう言い替えたらいいのかも分から
なくて。チラリと盗み見ると、何故か
口元を押さえた相馬さん。


「参ったな…。」

「あっあの、違くて! き、緊張って
言うか、いえ、緊張はしてるんですけど
相馬さんが怖いとかそんなんじゃ無くて
…っえっと、そのっ」

「デートは初めて?」

「ぅあ、は、はい…。」


もう、情けなくて涙出ちゃいそう。
もうハタチも越えるのにプライベート
じゃ、まだ男の人と2人きりのデート
とかもした事無くて。

18でこの世界に入ったから、仕方無いん
だけど…。でも。


――あれ? でも、今相馬さん、デート
って…言った…? デートって事は…
少なくとも私は女の子として扱われて?


「デ、デート…です、か?」

「…俺はデートのつもりだったけど。
咲ちゃんは違ったのかな。」


そんな台詞を、なっ流し目で言われて!
もう私はすっかりテンパってしまって。


「ちっ違わないですっ!」


なんて。本当はもっと大人な女性みたく
余裕を持って答えられたら良かったんだ
けど…。


「そうか…じゃあ、初デートの相手は
俺、なんだ。絶対いい日にしないとな」


そんな私の子供っぽい反応にも、さり気
無いフォローまでして下さって。
ああ、穴があったら入りたい…!

そう思って膝の上で強く握った手を…
相馬さんの大きな手が軽く解いて包む。


――え…?


相馬さんは何も言わず前を向いて運転
したまま、私の手を握る。

パニックは止まったけど、頭ん中真っ白
になって、動きが止まってしまう私。

相馬さんはチラリと横目で私を見て、
クスリ、と笑った。





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