Event 1

□不意打ち
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「咲、大丈夫か。」

「…へっ?! えっ、あ、大丈夫です!」

「………。」

「…ちょっと徹平ちゃん、もうちょっと
聞きようがあるでしょうよ!」


テレビ局の楽屋で。
今からWaveの皆さんの番組に出る為の
出番待ちで。マスコミの人達を撒くのに
早めに入ったから時間はまだまだあって

メイクをしに来てくれたモモちゃんと、
今朝からマスコミに張られてしまってる
私の送り迎えをしてくれてる山田さんに
囲まれてジッと見下ろされてる私。


――今日発売の週刊誌に慎之介さんの
スクープが載ってしまったから。

それは…過去お付き合いのあったらしい
グラビアアイドルさんとの記事で。
私はまだ写真は見て無い。
山田さんからスクープ内容を聞いただけ
で、まだ…。

…というか、まだ誰にもバレていない
(筈の)私と慎之介さんとの関係は、その
スクープで、もしかしたらと注目されて
しまっていて。

あのスクープの相手の方も(また…それ
より以前のお相手も?)以前共演されて
いた事で、今アシスタントでご一緒して
居る私も?! と疑われてて。
…それはそれで事実な訳なんだけど…。

それで予定よりも早め早めで行動し、
スケジュールを変えて移動もいつもより
ずっと早くしてマスコミに囲まれるのを
避けている状態で。


「あ、あの…。」

「だからアイツはやめておけと…
あれ程口酸っぱく言ったんだ。」

「ちょ…徹平ちゃん落ち着いて」

「俺は落ち着いている。大体そもそも
あの一条慎之介は元から女性関係の噂で
持ちきりじゃないか。しかも見てみろ、
今回は再燃の証拠写真まで撮られて挙句
現在宇治抹茶MC番組のアシスタントを
しているばかりにお前までマスコミに
注目されてしまって!」


抑えていたのが噴き出したかのように
山田さんのお小言が飛ぶ。

そんな、目を吊り上げた山田さんの後ろ
からモモちゃんが『こうなったら暫くは
止まんないわ、ちょっとだけ我慢して
吐き出させてやって?』って合図してて
…私は大人しく頭(こうべ)を垂れた。

暫く山田さんのお怒りは治まらなくて
ずっと俯いて聞いていたのだけれど、
一緒に黙って聞いていたモモちゃんが
流石に声を上げ。


「……んもぅ! いい加減にしなさいよ
徹平ちゃん! 大体慎ちゃんの事はあの
スクープが本当かどうかなんて判んない
じゃないの。マスコミがでっち上げが
お得意だってアンタもこの業界長いん
だから知ってるでしょうに! なのに、
今回の件は関係も無い咲ちゃんに
怒ったって仕方無いでしょう!
…そもそもあの仕事だって入れたのは
徹平ちゃんじゃないの。」

「む…そ、それはそうだが…」

「あっ、モモちゃん私は大丈…」

「甘いっ、咲ちゃん甘いわよ!
徹平ちゃんはねぇ、お父さん宜しく
アナタに近づく男はみぃーんな攻撃対象
なんだから! 甘やかしてたら周りの男
全員撃墜しちゃうわよ。」

「そ、そんな…」

「年頃の女の子から恋愛の楽しみ奪って
何のストレス解消が残るってのよ。
徹平ちゃん、もうちょっと視野を広く
持ちなさいな!」

「モモ…。」
「モモちゃん…。」

「…とは言ってもねぇ、今回のは完璧に
慎ちゃんが悪いわね。クロとは言わない
までもこーんなの撮られちゃうなんて
気を抜き過ぎ! …ね、咲ちゃん?
少しはトッチメてやんなきゃね?」

「…モ、モモちゃん…?」


まるで獲物を追い詰めるようにニヤリと
眼光鋭く嗤(わら)ったモモちゃん。
そんなモモちゃんを見て、溜息を吐き、
私の肩をポンと叩いた山田さんの諦めた
ような眼差し。


――え…?


「…どうやら本気で怒ったのは俺よりも
モモの方だったようだな…。ヤツも或る
意味可哀想に…。ああなったモモはもう
誰にも止められん。」


――って、えええ…?!

モ、モモちゃん?! し、慎之介さんを
一体どうするつもりなの…?!


サーッて血の気の引く私。
でもそれとは逆に、モモちゃんは何処か
楽し気にメイクの準備を始めてて。


――慎之介さん、どうしよう…?


そう私は心の中で呟いたのだった。



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