Event 1

□ハロウィン・ショック
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「いや、解るから、人語。」


いつもの冬馬の声、口調。

――ホッ…。


「今、夏輝は明らかにホッとしたな。」

「ああ。」

「なっちゃん、酷ぇ…。」

「しっ仕方無いだろ!
お前がその身体でその状態で人語も
通じないなんて、そんなのもう猟友会
呼ぶしかないじゃないか!」

「猟友会…。」

「流石にそれは酷いな夏輝…。」

「え、俺 撃たれちゃうの?」

「獣に成り切ってたらな。」

「まぁ身体はそのまんまで毛深いだけ
だから、特殊メイクでもしたのかって
感じだけど、でもまぁ普通に街中じゃ
完全アウトだよな。」

「コレ一体どうしたら…。」

「瓶にゃ効力時間とか書いてねぇな」

「えっ、もしかしてずっとこのままって
事もあったりする?! 」

「つか俺すっげー熱っちぃんだけど」

「お前の事話してんだろ! お前には
不安とかそんなの何も無いのか!」

「つかマジで駄目だー耐えらんねぇ!」


バババ!っと脱ぎ出す冬馬。

基本裸族のこいつが今更脱いだって別に
何も驚かないんだけど、この身体!

な、何かデカさはそのまんまだけど…
本当に犬みたいな骨格になってないか?!

突き出た首、骨盤から太股にかけても
なんかやたら前に出て、4足歩行っぽく
なってるって言うか…。

つか何だよ、その…ソレも!

デカイ犬のソレ。
しかもフル○起状態で。
やっぱ精力剤は精力剤なんじゃないか!


「それだけでも仕舞え!」

「何か逆に新鮮だな。」

「ちょ、秋羅!」

「ああ、人語が分かるデカイケダモノと
思えば特に困惑も起きん。」

「って、おいっ!
何でお前らそんなに冷静なんだよ!」

「そらアレだろ、夏輝がそんなにも
取り乱してんの見てたら何となく。」

「ああ、お化け屋敷現象だな。」

「何だよそのお化け屋敷現象って!
ってかそんなん言ってる場合か?! 」


「はーダメ、熱っちくって、なぁんか
ワサワサすっから俺、ちょっと外、
走って来るわ。」

「そろそろ冬だしな。」

「熱を冷まして来い。
…保健所に捕まるなよ?」


――そんな問題かよ!

保健所云々よりも、そんな姿で人に
見られて通報でもされたらコトだろ!


「あーい。」

「ぅわあッ、ちょっと待て冬馬ッッ!」

「夏輝アウト、もう出てっちまった。」


「わあああ…。」


もう俺の頭ん中、通報されて大騒動で
北島さんから社長まで出て来て連日
事務所で対応相談ってシミュレーション
までされてて。



それから程なくして。


コンコンコン

「はいっ?! 」

警察か、苦情が来て対応に困ったうちの
警備員かと思いきや、ピョコリと顔を
出したのは咲ちゃん。


「Trick or Treat!
ふふ、ハッピーハロウィンですね皆さん
今…お邪魔してもいいですか?」


――わあッ! 咲ちゃんっ!

今日彼女はオフで。
2日前の春のレッスンで気になった事が
あったとかで…今夜、俺らの時間が
大丈夫なら来るって連絡あったんだ。
丁度ハロウィンだし、差し入れも持って
来るって。


でもまさか、
今こんな状態の時になんて…!


でも俺のこの杞憂は春や秋羅も同じ様に
思い至ったらしく。


「――咲、ミキサー室に行こう」

「…だな。春、先に解散しとくわ。」

「ああ、そうだな。」


なんて目配せし合って。


「あ、でも今回のハロウィンのお菓子、
まーくんと作ったのでお裾分け持って
来ちゃったんです。宜しければ…」

「咲ちゃ――――んッ♡ 」


何処で嗅ぎつけたのか、いつの間にか
スタジオに戻って来た冬馬がわふわふと
咲ちゃんに駆け寄る。

この大型駄犬、もとい、狼冬馬。
全身からは湯気が出てて、お前は一体
何処をどう走って来たんだって訊きたく
なる程、枯れ葉や何かの実やらがその
獣の体中にくっついてて。


いや、そんな事より!


アノ状態でマッパの冬馬が(犬状態とは
いえ!)咲ちゃんに…!


「きゃ――――――ッ!! 」
「わあああああああッ!! 」






ガバッ!








「…おい、大丈夫か?
かなり魘(うな)されてたぞ?」


スタジオのソファで転寝してたらしい。

今夜は咲ちゃんがオフなのに、
わざわざこっちに立寄るって聞いて…

もう俺らは終わったけど彼女を待ってる
状態で。

昨日スコアの清書に半徹夜だった俺は
軽く仮眠を取ってたんだった…。



でも、目の前にはあのアンプル剤。


「コレ…。」

「あー、怪しいだろ? 宮部がこないだ
行って来た海外旅行のお土産っつって
置いてったぞ、さっき。」

「なーなー、気になんねぇ?」

「だから止めとけって。」

「だってさ、気になんねぇ?」

「いや、気になるかならないかで言えば
気になるけど、飲むのは勘弁。」

「どうせ怪しい精力増強剤だろ。」

「…馬鹿馬鹿しい。そんな物を飲んで
病院に担ぎ込まれるなんて事になったら
間抜け所じゃ済まないだろう。」

「おお、春が長センテンスで話す程の
馬鹿馬鹿しさってか。」

「秋羅、てめぇ…。」




――この会話……っ


俺が血相を変えてその小瓶を割ったのは
言うまでも無い。










Happy Hallowe'en?












end.

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