Event 1

□Share Pocky Dance
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――え…っ?!


「――ってワケでさ、よろしくね。
咲ちゃん。」


――えええ…っ! どっどうしよう…っ


思わずその場で蒼白になって固まる私。
傍で気の毒そうに眉を顰める山田さん。


今日は3時間公開生放送の大型特番の
お仕事で。有難い事に、私も歌わせて
頂ける事になってて。

だから勿論歌う準備は出来てる。
流石にもう数年このお仕事をして来たし
最近はこういった生放送でもやっぱり
緊張はするけど、ミスはかなり減って
来てて。

でも私、自分で言っちゃうのも情けない
けど、覚えが悪くて…いつも本番までに
何度もお浚いして、漸く本番に行ける
性質(たち)。


なのに。


急に言われた今夜の流れ。

『やー、ほら最近○ッキーダンスって
流行ってるでしょ? それで今回の特番
咲ちゃんもあのダンスユニットも
出るからさ、新旧の○ッキーキャラと
一緒に皆で踊ったら壮大でイイねぇ!
って話になってさ。…だから急でゴメン
だけど、後半までにある程度練習してて
くんない? あっ勿論完璧じゃ無くても
全然構わないから! 咲ちゃんなら
ミスしたって全然可愛いし、画的には
オイシイから気楽にやって!』


――そ…そんな……。


「…大丈夫か、咲…。」


情けない程覚えも悪いけど、でもそれ
以上に…私はダンス、本当にヘタッピで
何度も専門の先生に習ってるんだけど、
全然上手くなんなくて…。

だから私はステージでもアップテンポの
曲でもちゃんとしたダンス、では無くて
その…部分部分の振り付けは決まってる
けど、もうその場のノリで曲に乗って
簡単なステップとか、その程度で。

で、でも…CMで見た限り、今回の
○ッキーダンスって…その、相当激しい
ダンスじゃ無かった…?

その、ステップとか、手のフリとか。

私、実は見た時カッコイイって思って
ちょっと真似してみたんだけど…全然
動きについて行けなかったって言うか、
あのステップとかどうなってるの???
って……。それなのに…!


――本番まであと20分。
○ッキーダンスは後半だって言ってた
から、あと2時間くらいはある?
って、えっ?! 2時間しか無いの…?!
ザ――ッと血の気の引く私。


「や、山田さん、特訓しなくちゃ…!」

「今、分かりやすい動画を探してる。
ちょっと待て。」


私の事をよく知る山田さんも必死。
無言でスマホを操作する眉間には深い皺
…忙しなく動く指。

いくらミスしても大丈夫って言われても
そりゃそうだよね…。

私のダンスセンスじゃドタドタ麦踏み
みたいになるって分かりきってるもの。


「は、はい…。」


私はしゅーんとして頷いて。


「…大丈夫だ。……多分。」


あの山田さんから『多分』なんて言葉
引き出しちゃう程の私のダンスセンス。
ああ、もう泣けてきそう…。


「特訓出来そうな動画はある事には
あるが…これは…もう、さっき梶さんが
言っていた『番組的にオイシイ画』を
提供する事に徹した方が早いんじゃない
のか…。」


しかも、山田さんったら見つけた動画を
見ながら改めて私を見て、…溜息。


――そ、そんなに…っ?!

動画で見る限り、ダンスが難しそうだ
って判断なのか、それともダンスセンス
の無い私では無理だと判断されたのかは
分かんないけど、でも山田さんはこの先
あと2時間の猶予で出来る限りは一応
仕上げとく様にってだけ言って。


「や、山田さん?」

「すまん…後の処理はどうとでもする。
お前は取敢えず出来る事を頑張れ。
一生懸命やってさえいれば不興を買う
事は無いから。俺は一旦社の方に戻ら
なけれならないが、大丈夫か?」

「う…は、はい…。」

「動画はホーム画面から直接行ける様に
してあるから、何度も練習してみろ。
梶さんの話だと一応本番でも全員で練習
ってのはするらしいからな。」


――それでどうにか出来るのなら私も
山田さんも、こんなどんよりして無い…
ですよね…?


泣きそうな気持ちで山田さんを見送って
私は溜息を吐きつつ動画を見た。

その、一見簡単そうに進んで行く…
ダンスの振り付け解説を穴が開く程。



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