Event 1

□不機嫌な彼
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「…で、さっきのは何? 翔ちゃん。」

「う……」

「一磨が咄嗟に機転利かせてフォロー
してくれたからギリ、どーにかなった、
って感じだけど、アレ正味アウトだった
から。最後の最後であんなポッカリミス
普通する? 最近気が緩んでる証拠じゃ
無いの? こないだもボンヤリしてて
進行飛ばしたばかりだろ。」

「…亮太、その辺にしといてやれよ。
さっきのは、ちょっとだけタイミングを
外しただけで、ちゃんと翔は気づいて
フォローの後自分で立て直したんだし…
それに最近オフも無くてちょっと疲れで
集中力も落ちてるんだと思うし。」

「甘いよ、一磨。自分のミスすらも
気付かなくなったら終わりでしょ。
過労だなんだってのが通じるのは一般の
サラリーマンだけだよ。アイドルに
そんな言い訳通じるわけ無いだろ。
過労くらい耐えられないんなら、トップ
アイドルなんて辞めちまえ。」

「イチイチ正論過ぎてキツイなー亮太」

「京介ウルサイ。訳のわかんない理屈で
文句付けるほど、俺は暇じゃ無いよ。」

「わーゴモットモ。」

「……。」

「…京介、面白半分で亮太を煽るな。」

「へぃへぃ。」

「だからそれが…」

「分かった。もーいい。」

「りょ、亮太…?」

「こっちがWaveの為を思って言って
てもまるでイジメやクレーマーみたいな
取られ方してんじゃ、イチイチ言ってる
意味無いし。…帰ろ。そんで早く寝て、
集中力とやら取り戻せよ。」

「亮太ぁ…」

「情け無い声出すくらいなら、次から
おんなじ様なミスなんてすんなよ、翔」

「うんっ、分かった!」


――ホントかよ。

内心、そう毒吐きながら荷物を手に
楽屋を後にする。
…いや、しようとした。


そんな、まだ怒りオーラの漂っているで
あろう俺の背中に声なんて掛ける勇者、
もとい、KY(空気読めない)可哀想な奴は
やっぱ京介。


「今から咲ちゃんと逢うの?」


ニヤニヤした声、カンに触る。


「なんで?」

「いや、背中がウキウキしてるから。」

「ハァ?! お前が目が悪いのは知ってた
けど、とうとうアタマもヤバくない?
一度検査行ってこいよ。」

「り、亮太!」


慌てた一磨の制止が聞こえたけど無視。
そのまま楽屋を出て駐車場へと急ぐ。

車に入って、エンジン掛けて、思わず
口元に手をやる。


「くっそ…バレバレとか、俺の演技力も
落ちたなー…。まぁ元から京介と義人を
欺けるとは思ってなかったけどさぁ。」


口元には思わず漏れた笑み。
だって、京介の言った通り。

今日これから彼女と逢うんだ。
いや…逢う、と言うか、来てくれてる。
俺の誰にも教えて無かった秘密基地、
セカンドハウスに。今夜。

別に女と逢う為の部屋のつもりで借りた
部屋じゃ無かったけど、実際には今、
あの部屋は彼女との逢瀬部屋になってて
…本来の部屋にも早く彼女を呼んで、
寝泊まりして、行く末は一緒にだって
住みたい、なんて思ってるけど。

でも、それには未だ時期尚早。
事務所やパパラッチ対策とか完全にして
二人のことを公にしてからでなきゃ、
それは出来ない。
…セカンドハウスが無かったらきっと
こんな我慢だって出来てなかったとは
思うけど、俺は彼女を離す気なんてもう
更々無いし…ならば絶対完全包囲して、
どうやったって誰にも奪われず、邪魔
されず、彼女にも逃げ道なんて作らせず
捕らえるように計画中。

そんな計算高い冷静な俺とは別に、
彼女が好きで好きで、唯々側に居たくて
…なんてガキみたいに彼女に夢中な俺が
セカンドハウスって言う秘密基地では
露わになって、彼女を抱く。

去年のあのクリスマス。

元々好意は持ってた彼女だけど、俺の
心にスルリと入り込んで、しかも俺の
弱いトコ、ガッチリ掴んじまったから

…あの時決めたんだ。
彼女を離さないって。

これから先も、ずっと彼女は俺のものに
するって。

そして実際そうした。

あの日スグにキスして、彼女を捕らえて
お人好しの彼女に口約束させて。

年末には彼女をロケ先から撤収と同時に
バイクで攫って、セカンドハウスに招待
した。彼女がその日、山田さんのお迎え
では無く、現場からタクシーでの直帰
だって知ってたから。

それから更に二人の距離は縮まって。

彼女には二つの部屋の鍵を渡してある。
普段住んでいる部屋はそうそう彼女が
来れないとは知りつつも、だからって
セカンドハウスだけの鍵を渡してまるで
金持ちのおっさんが愛人を囲うような
やり方はしたく無かったから。

鍵を渡した彼女は、ベッドの上で…
嬉しそうに、恥ずかしそうに笑ってて
何度思い出しても顔がニヤける。

もう一年も経とうというのに。

メンバーにもハッキリ公言した訳じゃ
ない。…正直言えば牽制の為に言って
やりたかったけど、何か…そうして
しまったら、俺、歯止めが利きそうに
無い気がして。

だけど、あいつらに隠す気も無いから
分かりやすく彼女の近くをキープして
以前よりも近い距離、気安い会話。
俺が絶対に他の子とはして見せない事。

そうやって、彼女との事を主張して。



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