Event 1

□Holly Wishes
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「――ちゃん…? なっちゃん!」


――ハッ!


ビクッと反応した足がソファの肘置きを
蹴り、ガタンッと大きな音を立てる。

…どうやら俺は…スタジオのソファで
転寝(うたたね)をして居たらしい。

キョロリと周りを見回せば、真ん前には
真っ赤になって笑いを堪えてる冬馬。
その背後には震える手でベースの手入れ
してる秋羅、それから一見無表情のよう
だけど、目が苦笑している春。


「…え、ぁ……なに…?」


上手い事頭が働かなくて、ぼんやりと
した目でメンバーの顔を見回せば


「『咲ちゃんとの間に
子供が欲しい…!』……ッ、ぶは!」

「…へ? …、っ、あ?! 」

「だっはー! なっちゃん心の叫び!
ちょっと寝てると思えばイキナリの
叫びだもんなー。ひゃはは、ナニナニ?
咲ちゃん孕ませ計画?」


最高潮に嬉々とした声で俺の肩をパン!
と叩く冬馬。…っ、痛ぇな!


「…ちゃんと手順は踏まえて彼女に
負担は掛けるなよ。」


チラリと俺を見下ろし、溜息と共に
そう呟く春。

――そんなの、踏むに決まってるだろ!

ってか、そうじゃない!
べ、別に孕まそうとか、そんな計画して
いる訳じゃ…。そりゃ毎回彼女抱く時、
コレでそうなればいいのにって思って
中に出してる…ってのは無きにしも非ず
だけど、彼女はピル飲んでるし…。
しかも、そのピル、咲ちゃんには
ピッタリ合ってるみたいで、どんなに
何度も中出ししたって、どんなに濃いの
奥に放ったって…その兆候は全然無いん
だけど…。って、そうじゃない!

思わず、彼女のあの極悪に可愛らしくも
堪らない痴態が脳裏を浮かんで、こんな
場所で…しかもメンバーの前で何を俺は
思い出してんだ!って、ブンブンと頭を
振りそうになる。


「…何でまた自らそんな墓場に
捕まりに行くんだか。」

「だな!…まぁ、あの可愛い咲ちゃん
独り占めしたいってのは解るけどな!」

「アホか。子供なんか生まれた日にゃ、
独り占めどころか彼女は子供に必死で
男なんて、その眼中からポイかもだぜ?
…特にさ、咲ちゃんなんて絶対
オンナよりもハハオヤ優先になっちまう
タイプじゃねーの?」


ニヤニヤニヤニヤ笑いながらそう言う
秋羅。口調は揶揄(からか)い含んで、
『ヤダねぇ』なんて言ってるけど実は
そんな想像に至極満足そうだ。


「あー、そらあるなぁ。あの子普段から
母性本能丸出しだし。ぅわーなっちゃん
寂し?」


冬馬は冬馬でそんな秋羅の言葉に更に
ニヤニヤ嬉しそうに、ンな事言ってる。

…お前らなぁ…。


「その咲ちゃんの母性本能に
普段から甘えっ放しのお前が言うか?」


本気で呆れて冬馬に一言。
そこに間髪入れず春の同意。
ほら見ろ。


「その通りだ。」

「…おー、寂しいのは夏輝よりも
お前の方だったか。」

「ちょ、何だよ皆して!」

「なんだ、図星か。」

「違っ」

「どっちにしたって、どっちの
咲も俺のだけどね。」

「「「……。」」」

「何だよ。」

「いやー、あのなっちゃんが言うように
なったなぁって思ってさ。」

「…だな。ちょっと大人気ない気が
しなくも無いけどな。」

「それはそうだろう。」


したり顔で頷く三人。


――…あーもう、くそっ!


「五月蝿いなっ、ホレ!
俺ん事はいいから続きするぞ!」

「えー、せっかく面白くなってきてた
のにー。なっちゃんの大人げ無い本音も
聞けてさ♡ 」

「夏輝の本音なんて普段からダダ漏れ
だろ。ギター以外は咲ちゃん一色
なんだから。」

「言えてるな。」

「あーもう、五月蝿いっ!」

「だっはっは! 照れてら。」

「こっちも図星ってヤツだな。」


――あーもう、ホント五月蝿いっ


そんなクリスマスイブの会話をまさか
聞かれてるなんて思わないだろ?

しかも山田さんに。
…どうやら多忙極まりない咲ちゃんの
春とのレッスン日程の相談をしに来てた
らしい山田さん。

その日は結局、電話が入って口頭だけで
日程確認となったみたいだったから、
気付かなかった。
後で確認したらご丁寧に、下の守衛にも
『私は忘れ物をして一旦戻りますが、
神堂さんには直接ご連絡入れますので』
なんて暗に口止めまでして。



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