Event 1

□BookshelfA
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でも、その誤解(?)はスグ解けた。


「じ、じゃあお誕生日ケーキは日付が
変わってからにする?…ふふ、こんな
夜中に誕生会なんて初めて。何だか悪い
コトしてるみたいでドキドキするね。」


そう言ってニコニコ笑う咲ちゃん。

…も、もしかして…

本当に誕生日を祝う為の…その為だけの
お泊りだと思ってる?

一瞬、まさか、と思ったその考え。
ハタチも超えた(彼女はギリギリだけど)
男女が、しかも両想いの男と女が一晩
一緒に居てそれだけって…。

衝撃だった。
十代半ばからこの芸能界に足を踏み入れ
ている俺は…少し世間の常識からは
かけ離れた価値観を持っているのかも
しれないけど、でも…やっぱりここは…
もう少し色っぽい流れになるものでは
無いのだろうか。

目の前には愛しい彼女。
ついさっき両想いを確認したばかり。

そんな女性が目の前で据え膳状態だと
言うのに……いやいや、据え膳状態では
ない、な。彼女は未だそのつもりじゃ
無いんだから。

そう、『未だ』。
そう思えば霧が晴れる様だった。

そうだ、俺達はまだ今始まったばかり。
焦らなくてもいいんだ。
彼女は俺に『好き』だと言ってくれた。
…俺も伝えた。

だから2人は両想いなんだから。

これからは2人で歩いて行ける。
事務所の問題とかは有るだろうけれど、
それでもこの手を離す気は無いから。

そう思えば逸(はや)ってた自分の気が
スッと凪ぐのが分かった。

今は彼女のペースで。

そう思う。
この天然で鈍感な彼女が今日は自分から
行動を起こしてくれた。あんなに焦って
しどろもどろになりながらも。

その踏み込んでくれた一歩を…大事に
したい。…そりゃ、したい、と言えば
そっちの一歩だってしたいけど。
でも、まだ初心で物慣れない彼女を…
追い込みたい訳じゃ無いから。(正直、
追い込みたい気持ちは勿論あるけど)

俺は12時を待つ彼女に簡単に部屋を
案内し…2人で揃って本棚の前で言葉を
交わし。

以前から夢見ていた本棚の前のソファで
肩を並べ、互いに興味のある本を手に、
暫しの休憩。

普段なら、本を読む時は集中したいもん
なのに、彼女とならばポツリポツリと
交わす言葉が何でこんなに心地いいん
だろう。

左隣りが温かい。
小さな彼女の仄かな体温が左半身から
伝わって来て、体全体、そこから心まで
ほっこりしてくる。

それから、じんわりと溢れてくる何か。

これが愛しさなのだろうか。

そんな事をぼんやりと思いながら手の中
にある活字を追う。
ふと、視線を感じ彼女を見ればうっとり
…という様な視線で俺を見上げていて。


「…なに?」

「や! な…なんでもない!」

「咲ちゃん…?」


急に真っ赤になった彼女の挙動不審に
語尾を上げて名を呼べば、更に真っ赤に
なる君。


「や…、あの、本当に義人くんだなぁ…
って…。その、義人くん家でこんな風に
本を読んでるのが…まだ信じられなくて
…でも右側があったかくて、見たら…
ちゃんと義人くんだから、嬉しいなぁ…
って…。」


――!!!

…咲ちゃん、君はもっと
自覚した方がいい。

君の視線一つで、男がどんなに煽られる
のかって事。
…どんなにキュンとさせられてるかって
事を。

あんなに頑張って鎮めたのに、また…
ザワザワと昂る気持ち。

ダメだ駄目だ。
このままでは俺の一方的な情欲で彼女を
傷つけてしまいかねない。

そう思うのに。

一瞬だけでも離れなければ、と思うのに
離れられない。
彼女の温かさが心地良過ぎて。

そんな気持ちで、強く持っていた本を
握ってしまう。彼女がくれたカバーが
無ければ表紙に皺が寄ってしまっていた
事だろう。

でも、それだけじゃ抑えきれず…
とうとう俺は彼女に触れてしまった。

その柔らかな唇に。



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