Event 1

□黒猫の想い
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【 黒猫の想い 】


彼女と暮らし迎える
2回目の俺の誕生日。

また彼女は前日からパタパタと様々な
ご馳走や準備に余念が無い。

しかもそれを幸せそうにしていて。


彼女は本当に家庭的な子で。
良くあるタレントのウリである
『趣味はお菓子作りでお料理大好き、
実はわたし、家庭的なんです!』
みたいなのじゃない。

これは付き合い始める前に知った事だ。

この業界、一体何がチャンスになるか
分からないから、タレント、アイドル、
芸人と自分を売り込むのに必死。

だから色恋営業なんて日常茶飯事だし、
皆それぞれの工夫を凝らして印象付け
ようとする。例えば清純派タレントが
差し入れに手作りと触れ込み、実際は
ホームメイド風菓子を買い込み持ち込む
なんてザラな事。

俺が知ってるハナシでも、手作り菓子で
食中りした! と訴えられたタレントが
『実はアレは買った物だから自分のせい
じゃ無い!』と申し開きをした、なんて
マヌケな話もあるくらい。
実際は食中り情報も嫌がらせで、結果
言った方も言われた方も自滅してった。
そりゃそうだ。
作って売ってる店からしたら大打撃な
食中りの噂なんて、必死に無実を証明
しようとするに決まってる。またそんな
ガセで同僚の足を引っ張ろうとした女も
その事実の証明の前には陳謝するしか
無く。一度そんなイメージが付いた
タレントを使う事務所なんてのも無く。

そんなのを目の当たりにしてきた俺らも
女の子の『家庭的アピール』には正直、
食傷気味。

そんな中、スカウトマンとして超有能だ
と言われてるラビットの山田さんが、
半年も掛けて口説き落として来たらしい
咲ちゃんがデビューしてきた。

挨拶の前からそんな噂が立ってたから
皆 結構注目してて。

そんな彼女は見た目は確かに可愛いけど
ほわんとしててあどけなさが残る普通の
女の子だった。正直そんな前評判だった
から、もっとプライドが高そうなキツめ
の子だと予想してたのに。

新人だから腰が低いのは当たり前だと
して、でも全然自信なさ気。こんなんで
この世界大丈夫?なんて思った。

ニコニコ笑顔は天然で、それ所かその
キャラも発言も天然。真面目なのに常に
何処かぽやっとした印象で、常に控えめ
…そんな彼女の周りには、必然と集る
狼たち。

もちろん、俺らも含めて。

ああ、これが…この吸引力が山田さんの
目を引いたこの子の魅力?
なんとなくそう納得して。

だけど、違った。
本当の彼女の魅力。

デビュー曲では分からなかった。
でも、JADEの神堂さんがプロデュース
するようになって花開いた彼女の音楽的
センスとその魅力。それは彼女の引力と
相俟って。

彼女のブレイクは必然。
可愛らしく天然なそのキャラ。
伸びやかで優しい、なのに力強い声。
彼女の声を聴くと元気付けられる、そう
世間に言わしめる歌唱力はその年の新人
の中、ダントツで。

あっという間に俺らと同じ土俵にまで
上がって来た。正直に言えば仕事分野の
被る彼女は相当な脅威だ。
でも、異性である事、彼女の事務所が
俺らの事務所とは比べ物にならない程
小さな事などが良いように作用して、
彼女は俺らにとって良い友人という位置
付けになった。

まず真っ先に翔が彼女にハマり、一磨が
彼女に惹かれた。そして多分義人も。
俺と亮太は彼女の主演処女作に共演して
共に彼女に惹かれた。

実は…それより以前に、俺の主演する
映画の脇役として彼女は出ていて。
その時既に彼女には惹かれてた。
…その時は新人の彼女に惹かれてる自分
なんて認めたくなくて、気が無いみたく
クールに振舞ってたけど。

偶然にも一緒だったマンション。
近くのレンタルビデオ屋でも何度となく
遭遇して。最初、彼女が俺に近づこうと
しているのだと思ってた。
だから…少しちょっかい掛けて遊んで
やろうと近付けば、気が付けば惹かれて
居たのは俺の方。

彼女は何処までも天然で。
男としての計算とかスケベ心とかそんな
物には気付きもせず。

あくまで近所に住む、気さくな同じ世界
(芸能界)の先輩としての好意を寄せて
くれてるみたいで、自炊の夕食をご馳走
してくれたり、作り過ぎた時はお裾分け
してくれて。それは別に彼女ヅラとか
そんな感じでも無く。

アピールや作られた売り込みキャラでは
無く、本当にこんなにも家庭的な女の子
なんて初めてで。

俺は…『Waveの中西京介』としてでは
無い、本当の理想の彼女に…惹かれた。
それはもう、引力とか重力とかってより
運命的な強力さで。

そんな彼女と、紆余曲折あって恋仲に
なって。それでも俺が原因の事件にまで
巻き込まれて…それでも彼女は俺の傍に
居てくれた。



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