短編2

□(携帯電話、台本、月食、島の中心)
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プロトポロスという島はショウド、テイパー、アズラの三国に分かれており、中心には王達が会談するための塔がそびえ立つ。
そんな初歩的な事はプレイヤーならば言うまでもなく分かっていることで、尚且つ本来ならば誰も塔に立ち寄ることはない。
だからこそ塔の様子を見に来た弥鱈はいつもの退屈そうな目をほんの僅かに見開いた。
夕暮れ時、明らかにこの世界に不釣り合いな普通の身なりの少女が塔を見上げている。
彼女は知らないだろう。
そう遠くない未来、この島は崩壊する。
数日後に行われるであろうここでの会談を皮切りに。
誰の思い描いた台本通りになるかは分からないが、今も水面下で侵食は進んでいる。
「……あのぉ〜……」
しばらく様子を伺ってから、さも今来たかのように声を掛けてみる。
少女は警戒する様子も怯える様子もなく振り返った。
「ここで何してるんですかぁ……?」
ゆっくりと近づけば空を見上げられた。
「……月食を見ようと思って……。……多分、ここが一番綺麗に見えるはずです」
月食?
記憶を巡らせばニュースでそのようなことをやっていたような気がする。だが弥鱈にはどうでもよいことだ。
「あの、貴方の方こそどうしてここに?」
少女が尋ねる。
「……迷子、ですかねぇ」
あらかじめ用意しておいた答えを返す。
何と言われるかと思えば「ここ広いですもんね……」とつぶやかれただけだった。
「私も月食見ていいですかねぇ……?」
少女がいては中に入ることも出来ない。
かと言って立ち去っても彼女がいつ去るか分からない。
彼女と共に月食を見た後に彼女が立ち去るのを確認することが最善と弥鱈は考えた。
「いいと思いますよ。というか、わざわざ私に許可を取る必要はないかと……」
「ですよねぇ、では勝手に隣失礼させていただきます」
「どうぞ、多分もうすぐですよ」
少女の言う通り日が沈んで間もなく、段々と月が欠けていく。
「カメラとか携帯があれば写真撮れたのになあ……」
少女の呟きにここでは無理だろうと言おうかと思ったが何となくはばかられ、代わりにそうですねぇと呟いた。

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