墓場

□4月拍手
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いつだったか、どっかの本で読んだことがある。
神隠しは大半が狐や天狗、もしくは鬼の仕業である、と。
狐は婿取りのため若い男を、天狗は同性愛者のため美少年を(かの伝説で源義経が鞍馬の大天狗に気に入られたのは義経公が美少年だったせいかもしれない)、そして鬼は嫁取りのため若い女を攫う――

私は小さい頃からこういう話が大好きだった。
ホラー、オカルト、ファンタジー…。
お陰で本来不必要であろう知識をたくさん得てしまった。
生きていく中でこんな体験ができる人なんてそう多くはない。
私は一生、この未知なる素晴らしい世界を本や番組などを媒介としてしか知る事ができない。

そう、だからこんな目に合うなんてあり得ないはずだ。
それこそ非常に稀な確率。
先に言っておく。
私は現実主義ではないし、かといって妄想主義でもない。
夢にしてもリアルすぎる。
目の前には、少し前に現れてからずっと私を見つめる、ユニコーンのような一本角を持つ鬼。
ちなみにもう寝ようとした矢先の事だった。
妖怪に人間のプライバシーは関係ないらしい。
知る人ぞ知る、あのがんばり入道がいい例だ。
…それは置いといて。

現れてすぐにこの鬼が言い放った言葉。
聞き間違いかもしれない。
というかそう思いたい。
『…すみませんが、もう一度言って頂けますでしょうか……?』
鬼は先程と変わらないバリトンボイスで、先程と変わらない言葉を口にした。
「私の妻になりなさい」


 《地獄に嫁入りしました》

頭の片隅で私の知っている鬼のビジュアルと全然違う、と人ごとのように思った。
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