猫の小説

□風邪
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「センパイ!」
「笹塚先輩!」

石垣と等々力の声がやけに頭に響く

「聞いてくださいよセンパイ!この小娘ったら……!」
「誰が小娘で……!無能のくせに!」
「くぉんのガキゃあ〜!」

所々声が遠ざかって聞こえる
煩い
頭に響く

「お前ら…もう少し…し、ずか、に」

しろ、と言おうとした俺の意識は、流石に限界だったようで
暗く沈んでいった

  *風邪*


「笹塚さんが倒れたって本当ですか!?」

警視庁の仮眠室に小走りで入ってきたのは、女子高生探偵桂木弥子だ
その助手ネウロも、いかにも心配ですといった顔で後を続いてきた

「あっ桂木さん!」
「笹塚さんは…!?」
道中は走って来たのだろう、肩で息をする弥子に、ある程度冷静になった等々力が答える

「高熱で…ここ数日仮眠もとらずコーヒーぐらいしか口にしてなかったらしく、過労からきた風邪だと」
「うわあああんセンパイぃぃぃい!」

後ろでは石垣が涙を大量に流して寝ている笹塚にすがりついている

「そんな…なんでそんな事に!?」
「最近一課に回ってくる仕事の量が酷く、あの石垣さんすらふざけず仕事やってるレベルなんです…」
「マジで!?」
「おいお前らそれどういう意味だこらぁ!!」
「「そのままの意味です」」

騒ぐのも程々にして、これだけの騒音でも起きない笹塚の方へと視線を向ける
いつの間にかネウロが横たわる笹塚の横に立っていた
弥子もその隣に並び、笹塚の顔を覗きこむ

常に血色が悪い肌は、更に青白くなっている
熱の所為か目元が赤っぽいが、その赤みが痛々しさを助長している気さえする
しかも呼吸が荒いがいつにも増して少ない、これではまるで

「死人のようだな」
「ちょっ!?」

心を読まれたようなタイミングでネウロが呟いた言葉に、
縁起でもないと弥子は怒る

「あっ!あんたの魔界道具で治すとか、楽にしたりとかできないの!?」
「ふむ…その『楽に』とは昇天させる意味での楽にか?」
「ちげーよ!」

指先を刃に変えて不適に笑う魔人につい強くツッコむ
慌てて弥子は手で口を押さえて笹塚の顔を見るが、先程とほぼ変わらない状態だった

「…我が輩の持つ魔界道具のほぼ全ては苦しめる為の物だ
そもそも魔界の薬が人間に合うはずがあるまい」
「それもそっか…
なにもできないのかな…」

ふと周りを見ると石垣と等々力はもう居なかった
多忙だと言っていたし仕事に戻ったのだろう

弥子は傍にあった椅子を引っ張ってきて腰かけた
色素の薄い枯れ草色の髪を指でとく

本当に僅か、表情が柔らかくなった
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