賢者の石

□知らない人からの手紙
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幾つか飛行機を乗り換えて、空で何泊かした後、サマンサはふらふらしながらやっと英国の地を踏んだ。

ここはまだ空港なので、更に駅まで行かなくてはならない。


『さて、ここからどうしようかな………いっそのこと、タクシーで一発とか?』


サマンサはため息を吐きつつ、タクシーを探す事にした。

キョロキョロと辺りを伺っていると、何やら黒い塊が目の端に写り込んできた。

しかもその黒い塊は滑るように走りながら、サマンサの傍に素早く近寄って来る。


『あ………あいあいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ!!へ、へ、へるぷみーーーッッ!!』


右腕を強く掴まれたその瞬間、サマンサは助けを求めて叫んでいた。

多少の英語は出来るはずのに、咄嗟の事で脳内がパニック状態だ。

勢いよく腕を振ってみたものの、一向に離れてくれる気配は無かった。


「───落ち着け!落ち着けと言っておる!!」

『っ!!……………へっ?!』


何とか聞き取れた言葉を頼りにして、ゆっくりとサマンサは顔を上げて見た。

そこにはこの前夢で見たばっかりだった、大きな蝙蝠が仁王立ちしていた。

───眉間に、深い皺を刻んで。


『お、お久しぶりです。Mr.スネイプ…………』


サマンサが間抜けた挨拶をすると、スネイプは更に眉間の皺を寄せた。

そのまま渓谷にでもなりそうで、サマンサはほんの少し心配になった。


『あ、あの……………スネイプさん、ですよね?』


──もしや名前が違ったのか。

恐る恐るスネイプに尋ねてみると、しばらくして答えが返ってきた。


「………間違いではない。さよう、我輩はセブルス・スネイプだ。決して人拐いなどではない」


スネイプはよほど根に持つ性格なのか、皮肉混じりにそう吐き棄てて言った。

だが確かに早とちりが過ぎたのは事実であるし、 サマンサは素直に謝罪する事にした。


『す、すいません!良く見えてなくて………出迎えに来ていただいたのに、本当にごめんなさい!』


激しくお辞儀を繰り返していると、頭上からスネイプのため息が聞こえてきた。


「──まったく、そのようなところは父親にそっくりですな」


思いがけないスネイプの言葉を聞いて、サマンサは目を大きく見開いた。


『あの───父を、覚えて……?』

「当たり前であろう。同じ寮の、上級生でもあったのだからな」


鼻で笑いつつスネイプはそう言うと、サマンサの大きなトランクを手に取って、颯爽と石畳を歩きだした。

流れるようなその動作は流石と云うか、英国紳士と言わざるをえないだろう。


『たしか、父がスネイプさんより5つ程上でしたよね?………荷物、ありがとうございます』


とりあえずお礼を返したのちに、
サマンサはスネイプの隣に並んで歩き始めた。


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