賢者の石

□ダイアゴン横丁
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次の日に早速サマンサは、スネイプの元を訪ねていた。

地下はすきま風が冷たくて、夏だというのに肌寒い。

扉の前で深呼吸をし、それから3回ノックをした。


「────誰だ」


中から微かに声がする。


『教授、パケットです』

「………入りたまえ」

『失礼します』


了解を得てから扉を開けると、机の上で忙しなく羽ペンを動かすスネイプが見えた。


『お忙しい所すいません。早速書物を…と思ったんですが、また改めますね。』


どうみても今はその時じゃないと感じたサマンサは、なるべく足音を立てないように後退する。


「…いや、大丈夫だ。そこの棚にある。」


スネイプは目線を羊皮紙のままに、羽ペンで書物がぎっしり詰まった棚を指さした。


『あ、ありがとうございます!』


サマンサは頭を下げてお礼を告げると、また足音を立てないよう指された方へ移動をして行った。

書棚は研究室の中にあり、側には小さな黒いソファーが置いてあった。せいぜい、大人が二人座れるぐらいの広さだ。
書棚を見上げると、上から下、更には空いたスペースにも本を横にして入れてある。


(見たことの無い本がいっぱい…!)


サマンサは片っ端から引き抜くと、ソファーにどんどん積み上げた。15冊程積み上げたところでやっと座り込み、本を一冊手に取った。


◇◆◇◆◇


夢中で読み漁り、肌寒さが増して来た頃、なにやら良い香りが漂ってきた。


『…………え?』


不思議に思いながら顔を上げると、ぶっきらぼうに紅茶の入ったカップを突き出すスネイプの姿が見えた。
意外すぎる光景にサマンサは、思わずまぬけな声を出してしまった。


「───要らぬというならば今すぐ消すが」

『要ります要ります!ありがとうございます!』


このまま根に持たれたら堪らないとばかりに、遮るようにサマンサはカップを掴んだ。
芳ばしい香りを吸い込んだ後、琥珀色の液体をゆっくりと口に運ぶ。


『…うわぁ、美味しい…!』


サマンサは感嘆の声を上げてスネイプの顔を見ると、スネイプの視線はサマンサの積み上げた本に注がれていた。


「まさしく本の虫ですな、Ms,パケット。」


スネイプは鼻で笑いながら杖を取り出すと、本の山に向けてひと振りした。
するとまるで生きているかの様に、本は全て元の場所へと収まった。

その光景に目を奪われ見入っていると、ふいにソファーが沈み込んだ気がした。
書棚から視線をソファーへ移すと、真っ黒い塊が優雅に紅茶を飲んでいる。


(な、なんで隣…?)


サマンサは顔が熱くなるのを自覚し、必死に紅茶の事を考えようとぐびぐび飲み続けた。

しかし、飲めども飲めども液体が減る事はなく、むしろ増えているように感じる。
さすがにおかしいと気付き隣にいるスネイプを見ると、不自然に視線をそらされてしまった。


『…わかりましたよ…教授。私を、八つ当たりの道具に使いましたね?』


スネイプの横顔を睨むが、しれっとした顔で「何のことかさっぱり」と言い放たれた。

サマンサは溜め息をつきながら立ち上がると、カップを机の上へと移動させた。

机にはまだ書類が残っているようで、先程より山は減っているが、あちこちへと散らばっていた。


『教授、お礼にお手伝いしたいのですが、私に手伝える事はありますか?』


机を眺めながら尋ねると、意外と早い返事が返ってきた。


「あぁ…右の羊皮紙の束を、アルファベット順に並べ替えてくれ。」


──思っていたより疲れている様だ。
サマンサは気合いをいれて腕捲りをすると、早速羊皮紙の山へと取りかかった。


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