賢者の石
□真夜中の決闘
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サマンサの左肩が元通りになる頃、談話室の一角で一年生が「お知らせ」を食い入るように 見つめていた。
「やっと飛行訓練か──しかも、グリフィンドールと合同だ」
「やったわね!これでサマンサの敵がとれるわ」
他の一年生が箒の話しで盛り上がっているさ中、ドラコとパンジーは頭を付き合わせて、何やら恐ろしい会話をしていた。
『…………ねえ二人とも、私は何ともなかったんだし、ロングボトムも業とじゃ無かったんだから』
「ダメよ!女の子の肩に傷付けるなんて、一生許されないわよ!」
パンジーはサマンサの話しを遮って叫ぶと、またドラコと身を寄せあって何やら話し込みだした。
こうなってしまった時の二人は、てこでも杖でも聞いてはくれない。
『──もう、本当に仲良しなんだから。ドラコ!パンジー!私、スネイプ先生の所に行ってくる!』
サマンサは色々と諦めて、ひとり静かに寮から立ち去った。
◇◆◇◆◇
『教授、パケットです。また本を見せていただいてもよろしいでしょうか?』
ノックをして扉越しに問いかけると、固く閉ざされていた扉がゆっくりと隙間を開けた。
『失礼します』
それを返事と受け止めたサマンサは、開いた隙間からするりと体を滑り込ませた。
「──あれから、痛みはあるのか」
顔を合わせるなり尋ねてきたスネイプに、サマンサは少し考えてから答えをだした。
『はい。肩ならもう大丈夫ですよ、ほら!』
サマンサが左肩を大きく回して見せると、スネイプは「それならいい」とだけ呟いて私室へと引っ込んでしまった。
(───うーん、教授はいつも何か一言足りないんだよなぁ──)
近くにあった丸椅子に腰掛けながら、 サマンサは色々と考えた。
スネイプの発言は大抵主語が足りないらしく、説明不足に感じてしまう。
それが更に生徒達を不安に追いやっているのでは───とは思うが、本人はそれを否定する気が全く無い様なので、サマンサがとやかく言うことは出来ない。
『………つまり、損な役回りをしてるわけだ』
頬杖をついて小さく呟くと、私室から大きな籠を抱えたスネイプが戻って来た。
「付いて来い」
スネイプはサマンサに籠を押し付けると、返事を確かめ事もなく、早足で出口に歩き出した。
『待って下さい教授!私本を…………!いや、せめて行き先くらい!!』
サマンサの必至の抗議もむなしく、黒い背中はあっという間に見えなくなってしまった。
『もう!心配してくれたかと思えばコレだからなぁ………』
急いで籠を背中に背負うと、サマンサは慌ててスネイプを追いかけた。
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