賢者の石
□組分け帽子
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「サマンサ、何処に行くんだ?」
歓迎会が終わり寮へ帰る途中、道を外れるサマンサにドラコが話しかけてきた。
『えっと、スネイプ先生にちょっと呼ばれちゃって』
「……ああ、ものすごく睨まれてたもんな」
ドラコは少し考えた後、合点したのか頷いた。
「僕が地下までついて行ってやろうか?」
『ううん、大丈夫。すぐそこだし。ありがとう、ドラコ』
サマンサはドラコに手を振って、地下へ続く階段を下りた。
そこは松明の灯りが頼りないくらい、真っ暗闇に包まれていた。
『───教授。 パケットです』
最近では合図になっている三回ノックをしてみたら、扉越しに「入れ」と声がした。
言われた通り中に入ると、地下室らしいヒンヤリとした空気が体を包み込んだ。
「───さて、どうでしたかな?」
紅茶の入ったカップを差し出しながら、スネイプは唐突に切り出してきた。
(えーと、多分、ハリー・ポッターの事…だよね?)
脳内でそう補足をしたサマンサは、広間での事を思い浮かべた。
『そ、そうですね………正直、言われている程特別な印象はうけませんでした。どちらかと言えば、ごく平凡な……人の良さそうな男の子、といった感じでしょうか』
両手でカップを受け取りながら、サマンサは感じた事を正直に言った。
今日淹れてくれたこの紅茶も、香りがよくてとても美味しい。
「フン、随分と上からのご意見ですな、Ms,パケット。………しかし、的を射ている」
言いながら研究室の方へと歩くスネイプは、杖で暖炉の火を消し去った。
『あの、さすがに寒いんですが………』
紅茶とわずかな火で暖をとっていたサマンサは、さすがに堪らず抗議をした。
「…………こちらに来ればよかろう」
寒さでどうにかなりそうだったサマンサは、小走りでスネイプを追いかけた。
『ふうー、こっちは暖かいですねぇ』
研究室は狭いのもあって、暖炉の小さな火でも充分な暖がとれた。
ただひとつだけ難点なのは、ソファーが小さい事である。
このソファーに二人で座ると、肩が触れそうになってしまうのだ。
(どうも緊張するんだよなぁ………)
他に座る所もないので自然とスネイプの隣に腰かけたのだが、変に緊張してしまって、うまく言葉が出てこない。
『えーっと、あ、あの、私、スリザリンになりました!』
「知っている。目の前で見ておったからな」
『あ…そ、そうですよね…』
会話のチョイスに失敗したと気が付いて、サマンサは大きく項垂れた。
もう後は、紅茶を飲み干すことしか出来ない。
そう思い何気なくカップの縁を眺めていると、サマンサはある事を思い出した。
『あ、私、教授に話さなきゃいけない事があったんです』
そう言うとスネイプは頷いて、サマンサに話しの続きを促した。
『…………歓迎会の時、教授と話してたクィレル先生なんですが、実は休暇中にあの人を夢の中で見かけました』
「それは………予知か?」
『わかりません。まだはっきりとは見えなくて……もっと事柄が近付いてきたら、詳しく見ると思うんですが………』
まさか奇妙な躍りをしていたとも言えず、サマンサは当たり障りない答えをして濁した。
「成る程、では詳しく見た時は直ぐ我輩へ報告するように」
スネイプの意外な返答に、サマンサは目をパチクリさせた。
「その顔は一体何のつもりですかな?我輩を馬鹿にするつもりなら即刻───」
『わーー!!違います、違いますってば!』
今にも杖を抜きそうなスネイプを、必死になって押さえ付けた。
このままでは間違いなく、何か呪いをかけられそうだ。
『だ、だって、最初に予知夢の説明した時の教授、ものすごく馬鹿にしたでしょう?だから、信じてくれた事に思わず驚いたんですよ!』
サマンサがそう説明すると、今度はスネイプが驚いたようだった。
「……………………あれは、ダンブルドアに対するものだったのだ」
『───へっ!?』
思わぬスネイプの告白に、サマンサは両目を丸くした。
そしてスネイプはと言うと、眉間に手を当て項垂れていた。
「………ダンブルドアは、確かに我輩へ空港に行くよう指示を出した。だが、着いてみれば散々違いを指摘され………その、すまなかった」
つまり、ダンブルドアの勘違いで振り回され、更に嫌味を言われ、せめてもの当て付けであのような発言になったのだろうと、勝手にサマンサは結論付けた。
『───いえ、教授も大変なんですね………』
サマンサは心の奥底から、スネイプに同情を覚えた。
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