賢者の石
□ノーバート
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◇◆◇◆◇
イースターが終わり、試験が近付いてきたある日、にやけ顔したドラコが息を切らして談話室へと飛び込んできた。
『ドラコ、そんなに慌ててどうしたの?大丈夫?』
「やった!やったぞ!これでポッターはもうおしまいだ!」
ドラコは勝ち誇った顔でガッツポーズをして見せた。
『それ、どういう事?!』
サマンサは慌ててドラコを問いただしたが、決して口を割る事はなかった。
「いずれわかるさ」
ドラコはそれだけ言うと、グラップとゴイルを探すために男子寮に続くドアへと消えた。
後に残されたサマンサの胸には、不安だけが広がっていった。
◇◆◇◆◇
『──というわけで、最近ドラコが変なんです。物思いに耽ってるかと思いきや、突然ニヤニヤと笑いだしたり……』
放課後、サマンサは地下牢教室で鍋をかき混ぜていた。
今日は忘れ薬の調合だ。
『何か悪いこと企んでると思うんですよね』
サマンサは喋りながらも手際良く材料を切り刻む。
そして刻んだ材料を鍋に入れ、杖を使って火種を着けた。
『男の子はなんであんなに短絡思考なんでしょうね。自分にかえってくる事もわからないんでしょうか』
鍋をゆっくりと掻き回しながら、独り言ともつかない声で喋り続けた。
『この前のクィディッチの時だって────』
「喧しい!!貴様は無言で調合できないのか!」
とうとう小言に堪えきれなくなったのか、スネイプは机に羽根ペンを叩きつけた。
「出来ぬと言うのならば即刻この部屋から出て行け!」
『す、すいません!!』
烈火の如く怒るスネイプに、サマンサはひたすら頭を下げ続けた。
だが、それを見ても怒りがおさまらなかったのか、スネイプは早足で研究室に向かい、汚れた空き瓶を両手一杯に抱えて戻って来た。
「磨け。少しは頭も冷えるであろう」
スネイプは唸るように言うと、ガチャガチャと音をたてながらサマンサの前に空き瓶を積み上げた。
『……調合はいずれも危険性があると理解していたのに、本当にすいませんでした…………以後気を付けます』
サマンサは再度詫びた後、鍋の火を消して黙々と空き瓶を磨き始める。
スネイプは最初こそ怒りで忘れていたが、段々とサマンサの調合した忘れ薬の出来が気になりだしていた。
背を向けるサマンサに気付かれないよう鍋に歩みよったスネイプは、先程まで湯気をたてていた物体を覗き込んだ。
『あれ、教授いつの間に来たんですか?』
サマンサが背後から異様な気配を感じて振り向くと、そこにはしかめっ面で屈み込んでいるスネイプの姿があった。
『ん?私の鍋がどうかしましたか?』
不自然な姿で固まるスネイプを見たサマンサは、急いで自分の鍋に駆け寄っていく。
『…………失敗、してました?』
サマンサかおそるおそる、鍋からスネイプへと視線を動かすと、彼は衿元の刺繍を擦るように触っていた。
サマンサが不思議そうに見ていると、それに気付いたスネイプは慌てて体をもとに戻した。
「──不自然なくらい、よく出来ておる。あれだけ喋りながら、よくここまで仕上げたものですなMs,パケット」
『ありがとうございます。これも教授の指導の賜物です』
サマンサが磨きあげた瓶を片付けながら言うと、スネイプは罰の悪そうな顔をしてみせる。
『これが終わったら鍋も片付けて寮に戻ります。宿題が山のようにありますから』
「……勝手にするがいい」
スネイプはムスッとした顔で呟いた後、机に溜まっていたレポートを力任せに引き寄せ、乱暴にペンを走らせた。
サマンサはその姿を苦笑いで見つめながら、鍋に水を浸していった。
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