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□リナリアの花言葉
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「あれ?どうしたの?」
「!」

今日は私たちがバスケの大会で優勝した打ち上げだ。予選で仲良くなったチームの人たちも呼んでどんちゃん騒ぎ。みんな自分たちのことのように喜んでくれるのがうれしい。こういうとき男の子同士の友情がちょっぴり羨ましい、まさに好敵手やライバルって感じだ。広場では試合を思い出して思い思いに語る人もいれば、ごちそうに目を輝かせている子、歌い出している人までいる。片付けが大変そうだな、なんて考えていると飲み物がなくなったぞー、という声が聞こえる。仕方ないなと思いながらも一言声をかけてから部室に飲み物を取りに行く。一瞬水道水にしてやろうかとも思ったがさすがに今日ぐらいは多目にみてやろう。

「・・・」
「?」

部室に向かう途中、離れの方からなにかが聞こえてきた。不思議に思い近寄ってみると男の子がひとりうずくまっている。よく見てみると決勝で試合したチームの2年生だ。試合では2年生唯一のスタメンということで一際目立っていた。そういえばいつの間にか広場からいなくなっていた気がするけど、泣いてる?

「どうしたの?」
「・・・っ」

ほろり、ほろりと溢れた涙が彼の瞳から零れていくのを見ていられなくて、私はそっと、手に持っていたタオルを彼に差し出した。しかし彼は、私のタオルも腕も強引に退けてユニフォームの袖で乱暴に涙を拭った。痛々しくて、なんだか私まで胸が痛くなった。きっと彼は悔しかったんだろう。だから、泣いているんだろう、一人だから。

「‥ね、広場に戻らないの。」
「‥‥いやだ、戻りたくない。誰とも会いたくない。」
「・・・そっか。」
「・・‥」
「じゃあ、私もここにいていい?」
「・・・・好きにすれば。」
「うん、じゃあそうするね。」
「・・・」

小さくありがとうが聞こえた。あと、ごめん、も。きっと彼はすごく優しいんだろう。だから、今もこんなに泣いているんだ。

すくっ
「・・・・・」
すたっ

「・・・」

一度立ち上がってまたしゃがみこんだ彼がなんだか珍しいように思えた。彼は試合ではすごく勝ち気で、前向きな性格に見えたから。けど、なんとなくわかる気がする。多分だけど、彼は滅多に人前で泣かないんだろう。だから一度爆発した気持ちの整理が下手なんだ。今度は嗚咽を漏らしてとうとう本格的に泣き始めた彼にどうしたものかと困惑しながらも、タオル使っていいよ、あともしよかったら部室使って、と声をかけてその場を離れた。まずは‥・彼のチームメイトに言っておくべきかなあ、と考えながら広場に戻れば、彼らが熱唱していた。こっちの盛り上がりは順調すぎるようだ。と、慌てる彼のチームメイト。たぶん彼絡みだろうなと思いながらそのひとり(たぶん先輩かな?)に声をかけた。

「そんなに慌ててなにかあったんですか?」
「!・・・あ、あぁ、た、大変なんだ!チームメイトを探してるんだけど、ほら、試合に出てた2年の、どこにもいないんだ・・」
「ああ、彼なら、具合が悪いらしくて‥今は私たちの部室で横になってますよ。・・・・・無茶してなければ。」
「本当に?なんだ、よかった‥!」
「今知らせに来たんですけど遅かったみたいですね、すいません。」
「い、いや、いや、俺たちが気付けなかっただけだから、ありがとう! そうだ、あいつの調子は平気か?見に行きたいんだけど‥」
「あ、‥あぁー‥、あの、一人でゆっくりしたいって言ってたんで、今はそっとしておいてあげたほうがいいと思うんです。」
「そうか?なら仕方ないか・・、わざわざ、ありがとう!」
「い、いえ。そんなに大したことしてないので。」

彼に言ったら喜ぶかな。チームメイト総出であなたを探してたよ、なんて、私だったら嬉しすぎて状況によっては泣いてしまうかも知れない。・・いや、でも彼はもう泣いている。私は見せ付けられた友情を微笑ましく思いながら、その人と別れてもう一度あの場所まで戻るためゆっくり歩いた。その途中で飲み物を催促してくるやつらがうるさかったのでどついておいた。

離れに戻ると彼の姿はない。部室かな?と部室のドアを握って入ろうとしたらガチャン、と音がするだけで開きはしない。はあ、ご丁寧に鍵を掛けたのか。

「私だよー開けてー」
「‥‥‥‥‥」

カチャ、と鍵が回された音を聞いて部屋に入ればベンチに腰を掛けてタオルに顔を埋める彼の姿が。あ、私のタオル使ってくれたんだ。落ち着いた?と聞けばコクコクと首を縦に動かして、なんか、大きな体を小さく丸めてしゅんとなっているのが、例えるなら小動物みたいで不謹慎だけど、ちょっとかわいい。

「みんな必死になって探してたよ。」
「!」
「理由は適当につけておいたけど、そろそろ戻った方が良いんじゃない?」
「‥‥違うんだ、‥違うんだよ。」
「違う?」

俺は、心配してもらいたいんじゃないんだ。私はつぶやいた彼の隣に座って、話してもらえるように聞けば彼はしばらく黙った後にわかった、とタオルから顔を上げた。相変わらず俯いてはいるけど。

「・・・俺、勝ちたかったんだ。」
「うん。」
「あの人みたいになりたくて、あの人に認めてほしくて、だから、頑張ったんだ。」
「うん。」
「でも、勝てなくて、悔しくて、あの人の最後なのに、全然役に立てなくて。」
「・・・・・」
「あの人が、さ・・」
「・・うん。」
「・・・・・・好きなんだ。好き、なんだよ。」
「・・・・・・そっか。」

彼は嘲笑っていた。泣いてはいなかった。私は笑えなかった。なんだか、胸の奥がズキズキと痛い。不意に、私の体が傾いた。彼に抱きつかれたから。急なことにびっくりして声が出なかったけど、今は恥ずかしいよりも悲しいが上回っていたから。そっと震える背中に手を回すだけ、それだけしかしなかった。したくなかった。不意に眼の端に見えた花を見てその花の花言葉を思い出す。まるで私の気持ちそのものだ。彼に知ってほしい。


リナリアの花言葉


それが最初。

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