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□可哀想な化物
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「おい、垂れてるぞ、汚ねぇ。」
「ああ、ごめんごめん。」
「ったく、おい着いたぞ。」
「!うおゎー、海だー!!」
「海だな。」



「・・なんでそんなにテンション低いんだよ。もっと楽しめよ。」
「・・んなことねぇよ。」
「(・・・)ふーん、なら、楽しめるようにー・・・こうしてやるよ!!」
「!おいっやめ、」

バッシャーン!

「あはははー。」
「・・・の、やろー、」
「あ、」

バッシャーン!!





可哀想な化物





水でびしょびしょになった服を着替えて、あいつは俺の腕の中で寝転がる。

「俺、もうすぐこの町から出てくよ。」
「…そっか。」

少し残念そうだ。

「・・・驚かないんだな。」
「いつかは、って分かってたしな。」

「そんな顔すんなよ。また会おうと思えば、きっと会える。」
「そりゃあ、そうかもしれないけど。」

あぁ、そんな顔をしないでくれ。俺はお前にそんな顔をされるほどの価値なんてないんだよ。敵なんだよ。お前ら人間の、・・お前の敵。

「それじゃ、明日は目一杯遊ぶか!」
「!あぁ。」

そうして俺たちは互いに身を寄せあって寝付いた。





「あ、これ・・」

いつものように森の中を散歩しているとあいつはなにかを見つけたようでしゃがみこむ。俺もしゃがんで、なにかを慣れた手つきで採取するのをじっと見ていた。

「この薬草はさ、薬の代わりになるんだ!」
「へぇ。」

あいつは自分の袖を捲り、葉っぱを細かく砕いてからそれを器用に擦り込んでいく。これすごくよく効くんだ、なんて俺は怪我なんて直ぐに治るから必要ないが。ぷち、と足元にあった草を取り、くるくる回した。

「これもか?」
「!ああ、違う違う、ていうか危ないから早く捨てろ、それ毒があるんだから。」

ほら、形がよく見ると少し違うだろ?だから早く離せ。とちょっと慌てている。ああ、そうか、こいつは俺が人間じゃないって知らねぇもんな。

「名前は確か、ええっと・・・・忘れた。とにかく、似てるから事故が絶えないんだよ。これ、毒草だから。」

この辺りでは見かけたことなかったのになぁ。なんでだろ?と、不思議そうに言いながらまた歩き出したあいつの背を見ながら考える。俺がいるからさ、まさかこんなに速いなんて思わなかったが。

「まぁ、悩んだってしょうがねぇだろ。」
「そうだな。」

息を吐くように俺は嘘をつく。人智を越えた力を俺は説明なんか出来っこないと解っているから。

夜が更けて、草っぱらで寝転ぶ。隣を見れば、うとうと、と寝そうになっているあいつ。腕枕にその小さな頭をのせれば、にっこりと笑って、ぎゅ、と俺の服を掴んできた。嗚呼、俺がもしも人間を滅ぼしちまったら、この笑顔は永遠に無くなるのか。

けど、俺が俺で居たいのならお前を手放すしかない。お前をなくしたくないなら、俺は消えるしかない。


コロシテシマオウカ?


俺たちは一緒にはいられない、じゃあ、それじゃあ

ぐい、とあいつの身体を引き寄せながら上体を起こす。右手であいつの頭を掴んだ。

そして、





こぷん、とその口から鮮やかな赤が洩れる。あいつは、貫かれた腹を見たあと、俺を見て、こぽ、と血を溢れさせた。ごめん、俺人間じゃないんだ。

「俺は人間に成れない。俺はお前と一緒に居られない。俺は人間じゃない、だから。」

だから、だから、と次々と言葉が押し寄せる。言い訳のようにしか聞こえないのは何故だろう。

「ごめん。」

ピチャッ
「!」

弱々しく、鮮やかな赤に染まった手が俺の頬に触れる。その手はあたたかく、同時にすごく冷たかった。

にっこりとお前は笑い、またね、と唇が呟く。いや、そう言って欲しかっただけ、幻聴かもしれない。

「・・・あぁ、先に行っててくれ。」

そう答えたら、ずるり、と頬から手が落ちる。もうこいつの喉から漏れるのは血液が滴る音だけになった。

動かない。冷たくなって、砂袋のように重い。死体はアイスクリームのようには溶けない、消えない。人間だから。

ちゅ、と唇をその指先へ寄せた。

だけどやっぱり、俺は満たされなかった。

衝動的にしたこととはいえ、どんな後悔が襲ってきても絶望に飲み込まれそうになっても受け入れるつもりだったのに。

瞬間、流れる筈の無い涙が溢れた。あんな綺麗なもの、俺にはあるわけないのに。だけどそれは確かに涙で、如何しようもなく、あいつの亡骸を抱きながら俺はただ泣き続けた。ああ、痛い。





あいつが死んでも当たり前に太陽は昇り、風が髪をさらい、雲は流れる。時間は止まらないし、俺は変わらず生きている。

血で固まってしまったざらざらの髪をなでれば赤い塊が地面に地面に落ちた。

血のついた草やテントは敢えてそのままにして、俺はある場所へと向かう。





「よぉ、人間。」
「?お前だれだ。」

あぁ、耳鳴りがうるさい

「!なんだその血は!あいつはどこだ!!」
「あぁ。」

床を見れば、確かに俺は未だに赤かった。はっ、と笑ってみる。

「…森でテントを見なかったか?赤い、赤いテントを、」

そいつは全てを悟ったのか、剣をその手に取り向かってきた。そうだ、それでいい。





そうして、生を手放した。

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