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□「偉大だよ親友」
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「ひさしぶりだな。」

卒業以来、会っていなかったそいつの口調からは、故郷の訛りが抜けていた。

「おお、ひさしぶりやな。」
「忙しそうだな、」

お前も、と付け足された視線の先には、最近3才になった遊びたい盛りの子供と振り回されているであろう母親がひとり。ああ、そうだな。昔から物わかりの良いはそいつは少し気まずそうに笑う。

俺はこいつを、結婚式に呼ばなかった。

「・・結婚してたんだな。」
「・・・驚いたんか?」
「そりゃあ、まぁな。」

部活ではいつも張り合って、喧嘩して、だけど仲が良かった俺の大切な親友。

「そっか、大変そうだなパパは!」

口の上の髭が小さく揺れる。豪快な笑い方は昔のまま。しかし、やはり少しばかり年老いて映る。老いに関しては、俺も人の事は言えないが。

「そっちかて何も言わんと居なくなったんやから、お互い様やろ。」

俺とこいつはいわゆる腐れ縁といった関係だ。物心ついた頃からずっと一緒。幼稚園だって、小学も中学も一緒だ。このままずっと一緒、とはいかなくとも永く付き合っていける親友だと思っていた。だけど、こいつは中学卒業と同時に引っ越した。しかも親友の俺に引っ越しの話など何一つ言わずに東京へと身を移したのだ。引っ越しの話は、後になって空き家になった家の前で突っ立ったまま動かない俺に、近所の人が教えてくれた。

俺は、こいつが好きだった。

最初は男同士だとか、なんでこいつ?なんて悩んだりもしたが、結局好きなものは仕方ないと、しかし、決して伝えることはしまいと決めていた。

「俺、結構ショック受けたんだぜ。お前が結婚してたって知って。」
「へぇ、そうなん?」
「ああ。」
「なんで?」

こいつから標準語が出てくる度に、まるで別人と話しているみたいに感じる。次第に訛りのある自分が少し変に思えた。いや、変わったのは俺じゃなくてこいつだ。

少し悲しい。いや、寂しい。

「俺は昔、お前が好きやった。」

まるで時間が巻き戻ったみたいだった。懐かしい訛り口調。出来ればもう少し早くその言葉を言って欲しかった。もう少し、もう少し、早く。

それを聞くには、あまりにも遅すぎたよ、親友。



「偉大だよ親友」

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