main

□手紙
1ページ/1ページ


見て見ぬふりをしていた。


気持ちなんか知らない。ただただ、拒絶をしないから。気が向いたときに手を出して、何度も何度もその態度に甘えた。 誰でもよかったのかもしれない。とりあえず、と手を出したのかもしれない。絶対に俺を拒まないと知っていて、そこにつけこんだのかもしれない。それに俺はこの関係を気に入っていたから。

だけどこの関係が壊れたとき、ああそうか、位にしか思わなかった。仕方のないことだと思った。あいつはもう俺の顔なんて見たくもないだろう。拒絶はしなかったけれど、同意もしなかったのだから。もしかしたら嫌々だったのかもしれない。充分有り得る話だ。黙って消えたのは俺に気を使ってのことなのかもしれないが、今となっては分からず、確かめようもない。










数年後、俺の元に一通の手紙が届いた。まさに不意打ちだった。忘れようとしていた矢先、罪悪感が背中から這い上がってくる。恨み辛みを込めた手紙だろうか。でももし万が一に、そうでないなら、変な期待を持ってしまいそうで嫌だった。

封は切らなかった。

机の引き出しの中に仕舞って三日間、知らないふりをした。そうして三日後、思い出したように取り出してみる。縁を視線でなぞる。しかしどうしたって封を切る気にはならなかった。期待と不安で押し潰されそうだ。あいつはどんな気持ちでこれを書いたのだろう。俺には到底分かるはずもない。きっと封を切れば全てが解けるのだと知っていても。



手紙

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ