main

□兄弟の躾
1ページ/1ページ


兄弟の躾



ある日弟が子犬を連れて、ちょっとわくわくした顔で声をかけてきた。

「おすわりを覚えたのか?」
「うん。」

話を聞くとどうやら毎日のトレーニングが功を制したらしい。それが嬉しくてわざわざ俺に見せに来たのか。なんかうれしいな。

「おすわり以外にもいろいろ覚えたんだよ。」
「へぇ、すげぇな。何覚えたんだ?」
「見てて。」

弟は子犬に向き直ると、指差すように人差し指を立てて合図を送った。

「おすわり。」
「おぉ!座った!」

すっとその場で座った子犬を見て、俺はパチパチと手を叩く。この短期間でよく覚えたなぁ。心無しか得意気だ。

おて、おかわり、ふせ。すごいな、実は結構頭良い犬なのか?次々と芸をこなすことに俺は素直に感心していた。

「たいあたり。」
「は?」

と、弟が俺を指差した。たいあたりって、そんなの犬の芸にあったか・・・?なんて疑問に思った次の瞬間、俺の腹に鈍い衝撃と痛みが走った。

「痛っ!?」

思わずしゃがみ込みんで腹をさする。痛い!地味に痛い!!

「はい、よくできました。」
「よくねェェェ!!」

子犬の頭を撫でて褒める弟に、俺は全力でツッコミを入れた。

「無垢な子犬に何教え込んでんだお前はァァ!!」
「たいあたり。」
「そのまま答えんな!!」
「なきごえとかもできるよ、聞く?」
「聞くか!!」

何でそんな平然としてんだよ!少しは自分の行動に疑問を持てよ!子犬は褒められたのが嬉しかったのか、尻尾を振りながら弟の足もとをぐるぐる回っている。このたいあたりも犬にとってはじゃれて遊ぶ延長なんだろうな。

「さすがに十万ボルトは無理だった。」
「んなもん出るわけねーだろォ!!バカかお前は!」

どっかのポケットに収まるモンスターじゃねぇんだぞ!こんなごく普通の子犬が十万ボルトなんてできるわけねぇだろ!つーかその発想どっから出てくんの!?と、そんなごく真っ当な文句を言う間もなく弟は再び俺を指差した。おい、まさか。

「君に決めた!」
「うおっ!何すんだよバカ!!」

勢いよく顔に飛びついて来た子犬を、何とか引き剥がす。 抱き上げられてると思っているのか、嬉しそうに尻尾を振っている。はあ、こいつに犬を飼わせること自体が間違ってたのかもしれない。

「つーか君に決めたも何も、こいつしかいねぇだろーが。」
「違うよ兄ちゃん。今の世の中ナンバーワンにならなくても元々特別なオンリーワンなんだから。」
「そんな世界にひとつだけの価値なんていらねぇよ!うまいこと言ったみたいな顔すんな腹立つ!」
「・・・・・ひきぬく!」
「は?ひきぬくって何?・・いだだだだ!!髪引っ張んじゃねェェェ!!」

・・・犬より先にこいつの躾が必要だ。絶対。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ