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□輝く笑顔
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輝く笑顔

「何だ今日は、一段と騒がしいな。なんかあったのか?」
「いい知らせだ!」
「だから何だよ。」

いつも通り、いつもの時間に転がり込んできたそいつは、いつものように同じパスタを頼み、いつも以上の笑顔で騒いでいる。もう一度聞けば一層眩しい笑顔を見せて、とんでもない言葉を口にした。

「結婚する!」
「・・・・・・・・は?」

主語はないが、俺にはそんな予定はない。 そうなるとやはりこの言葉の主語は必然的にこいつだということになる。確かに、ここ最近こいつが一目惚れしたらしい女性を口説いているというのは散々聞いていたが、まさか本当だったとは、驚いた。

「・・・・・そうか、おめでとう。」

笑って言ってやれば、長年の付き合いの俺も、見たことのないくらいの幸せそうな顔で、おう!と頷くので心が折れそうになった。俺がこいつのことが好きだと気づいたのはいつだったか、昔のことすぎて思い出せない。叶わないとはわかっていたが、俺の料理をおいしそうに食べながら、笑顔で笑うこいつを眺めているだけで十分に幸せだった。羨ましいな。どんな人なんだろう、この男を惚れさせた女性というのは。





今日は一段と騒がしい。テーブルの上は料理やら酒やらで埋め尽くされている。出せる料理はすべて作って出してしまったので、もう俺の仕事はこいつら全員が帰った後の後片付けだけとなった。眩しさに目が眩み、逃げるようにして薄暗い端の方に行き壁にもたれ掛かる。騒ぎの中心にはあいつと一人の女性がいて、二人とも幸せそうにみんなからの祝福を受けている。まだあの子とは会話すらしていないが、見た限りは悪い子ではなさそうだ。酒を注いで回っていたり、あいつに料理を取ってあげていたり、たまに顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。

「どうしたんだ?」
「、お前か。・・・あいつらの方にいなくていいのか。」
「惚気が酷いから逃げてきた。」
「ははは!そっか。」
「・・・・・いいのか?」

呆れたように笑っていたそいつの顔が真剣になり俺に問い掛けてきた。この男は素晴らしく良くできた男だ。頭も良くて気が利く、最高だな。まさか俺があいつを好きだということまで見抜かれていたと知ったときは思わず分かりやすかったか?、と聞いてしまったが、分かりにくいと返されたのでほっとした。

「・・いいんだよ。今まで通り、俺はあいつの幼馴染みで、行きつけの店の店主。ただそれだけだ。」

小さくため息をつくのが見えた。ありがとう。お前みたいな奴がいるだけで少なからず俺は救われている。

「俺は、さ、」

ふと、何かを探すようにあいつが辺りを見渡している。あの子が不思議そうにそれを見上げ 、 端にいる俺たちと目が合うと、俺を探していたのか俺を呼ぶ声が聞こえる。いつもの眩しいくらいの笑顔で軽く手を振ってこっちに来いよ、と。

「行かないのか?」
「・・・いや、行くよ。」
「・・俺も行こうか?」
「いや、いい。大丈夫だ。」

ああ本当に最高だよ、ありがとう。

「紹介するぜ、こいつは俺の幼馴染みでこの店の店主なんだ。今日のは全部こいつが作ったんだぜ、美味いだろ?」
「お口に合いましたか、奥さん。」
「はい、とても美味しいです。」
「はは!可愛いだろ?」
「そうだな。・・・おれの幼馴染みを頼むよ。少し馬鹿だが。」
「馬鹿って何だよ!」
「そのままの意味だよ馬鹿。」
「この野郎っ!」
「うわ、ちょっおいやめろ!エプロン引っ張るな!」

そんないつもの様子に周りが笑い、この子も楽しそうに笑った。眩しい、な、眩しいよ。



お前の
「明日とか昨日を、楽しそうに話す笑顔が、好きだった。」

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