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□思い出は魚
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スーツケースにたくさんの悲しみを押し込めて、旅に出る。なら私は、小さな鞄にたくさんの夢を詰め込んで、あなたを迎えにいくよ。あなたには甘くて美味しい夢を渡す。そうして私は、代わりにあなたの悲しみを大切に仕舞いこめばいい。そうすればきっと、私の悲しみを入れる隙間は無くなるから。



思い出は魚



「君の鞄にはいつも飴が入っているんだな。」
「お一ついかがですか?」
「ああ、頂こう。」

宝箱を漁るように手が鞄の中を泳ぐ。ビニールの包装紙はざらざらとしていてまるで鱗のようだ。それをざらりと撫でて一つの飴を掴む。

「懐かしいな。俺が子供の頃にもあった飴だ。」
「そうなんですか、そんな前からあったんですねこれ。」
「昔はそこまで種類がなくてね、これが定番だったんだよ、よく食べたな。」
「そうなんですか、意外です。」

私が渡した飴を見てから懐かしげな表情をすると、ちょっと寂しそうに笑う。



上手くいかない、上手くいかないな。



「一人は寂しいですか?」

貴方が孤独に笑う度、私はどんどん笑えなくなっていく。



私は寂しい。



「俺の孤独が欲しいのかい?」

違う。私は私の孤独を埋めたいだけ。貴方の悲しみで、私の心を紛らわせてほしい。そうすれば、私は私の悲しみに向き合わなくていいから。

「なら、君の孤独は俺が貰おうか。」

幸せはいつかはなくなるものだ。こうやって意識の深い海の底へ沈み込んで、ただただ腐敗していくだけの世界の中を、泳ぎ続ける。



飴玉ひとつ。

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