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□「愚弟が!!」
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帰ったら食べようと思って楽しみにしていたプリンが、冷蔵庫の中から忽然と姿を消していた。
「愚弟が!!」
ドスドスドス、と多少大げさに足音を立ててリビングに向かう。うるさいわよー、と母親の声が聞こえるが無視だ。扉をバンッ!と開けるとリビングでは弟がこたつでぬくぬくしながらテレビを見ていた。そのこたつの上には
「あたしのプリン!!」
「何だねーちゃん帰ってたのかよ。」
「何だ、じゃないわよ!あんた、あたしのプリンをっ・・・!」
「ああこれ?ねーちゃんのだった?ごめんごめん。」
悪びれる様子もなく答える弟。もちろん、楽しみを奪われたあたしは爆発寸前。ひとまず弟の背中をおもいっきり蹴りつけ、今すぐ同じものを買いに行けと命令を下した。なのにこの弟は寒いから嫌だとか、そもそもこたつから出たくないだとか、うだうだ言い出す始末。ならばと、あたしは弟の服を引っ付かんで家の外へ放り出した。
「おい!何すんだよクソ姉貴!」
「買ってくるまで家に入れません。」
仮にも姉をクソ呼ばわりした愚弟を残して玄関の扉を閉めて鍵をかけた。弟はしばらく開けろよバカ!などと喚いていたけれど、一切とりあわずにいたら諦めたらしい。ざくざくと雪の中を歩いていく音がした。 弟とはいえもう高校生だ、だというのに本当に手のかかる。人のものを勝手に食べても反省しないし、まともなのはムダに整ったその顔とムダにすくすくと育ちに育った体だけなのではないだろうかと、先行きが不安すぎる弟の将来を案じながら弟の帰宅をこたつに入りながら待った。
「・・・で?これは何かな?」
「見りゃわかんだろ。ガリ〇リ君。」
「・・・で?あたしのプリンは?」
「金が足りなかった。」
「この愚弟がァァァ!」
コンビニの袋を提げて帰ってきた弟。嬉々とその袋を受け取ってみれば、中に入っていたのはプリンではなくガリ〇リ君だった。お金が足りなかった、と答える弟だがあたしはガリ〇リ君を買ってこいなどとは一言も言っていない。プリンを買ってこいと言ったのだ。断じてガリ〇リ君など頼んでいない。普通お金が足りないなら足りないで似たようなものを買ってくるだろう、というか、その右手のジュースはなんだ!ジュースを買えるお金があったならプリンだって買えたはずだ。つまり、弟はあたしのプリンよりもジュースを優先させ、そのせいでお金が足りなくなったからなぜかガリ〇リ君を買ってきた、というわけである。プリンを買う気などはじめからなかったというわけだ。というか
「一応聞いてあげよう。どうしてガリ〇リ君を買ってきたのかな?」
「食いたかったから。」
「・・このッ・・・・・腐れ愚弟が!!」
「そう怒んなよ、一個はねーちゃんにやるから。」
「!?なにもう一個買ってんのよ!!てか、もう一個買えるならプリン買ってこいや!!」
まさかの二個買い!得意気にポケットからガリ〇リ君を出す弟だが全然うれしくない。とりあえずふたつとも弟から取り上げた。
「おい!返せよ!」
「うるさい!!あんたはあたしのプリンを買わないでこのガリ〇リ君を買ってきたんだから、ふたつともあたしが食べる権利があんの!」
あたしは弟に背を向け、ガリ〇リ君のパッケージを開けた。本当はプリンが食べたかったけれど、今日のところはこれで我慢しよう。今度はあたしの監視つきで弟にプリンを買わせればいいと、自分を納得させてガリ〇リ君にかじりついた。 冷たい。この真冬にこたつで暖まりながら冷たいアイスを食べるって、どうなんだろ。
ガブッ
「・・・どんだけ食い意地張ってんのあんた。」
「だって俺の金で買ったんだぜ?」
「あたしの金で買ったプリンを食べておいて何言うか!」
信じられないことに、こいつはあたしが食べていたガリ〇リ君にかぶりついてきた。
「ねーちゃんのものは俺のもの、俺のものも俺のもの。」
「どこのジャイアンだ!!」
「ジャイアンじゃねーし。」
「はあ、」
「ため息つくと幸せが逃げんぞ。」
「うるさい。」
誰のせいだ、誰の。仕方ないので、問答中に少し柔らかくなったもう一個のガリ〇リ君をすっと弟に差し出す。しかし弟はそれを受け取らずにそのまま私の持つ方にまたかぶりついてきたので、自分で食え、と丸ごと弟の口に押し込んだ。
(ただのシスコン)